研究実績の概要 |
研究課題を達成するために, 調査1を完了し, 実験2に向けてパラダイムの構築および方法論の見直しののち, 現在調査2を実施している最中である. 調査1では, 既存動詞および既存格助詞を用いて, 日本語の他動詞文で動作主-被動者を標示する格助詞ガ, ヲが何歳頃から何歳頃にかけて学習されるのかを調査した. この点を明らかにするために, 2-5歳の日本語児に既存動詞とともに用いられているガ, ヲを呈示し, その理解を測った. 結果として, ガは3歳から徐々に学習が始まり, 4歳でチャンスレベルより上であったのに対し, ヲは5歳以上でチャンスレベルよりも有意に理解ができていた. ここから, ガ, ヲは, その学習年齢が異なり, 概ね4-5歳以上にかけて学習が進んでいくことが結論付けられた. (2014年3月-6月に行った調査1) 調査1の成果は, Mental Architecture for Processing and Learning of Language (MAPLL) 2015及び 日本認知科学会全国大会において発表をした. 次に, このような格助詞がどのように学習されていくのか, 具体的には, 耳にするどのようが言語情報を利用して学習が進んでいくのかを明らかにするために, 方法論の構築および修正を行った. 結果, 子どもが日常では耳にすることのない人工格助詞を実験内で, 次の2つの構造で学習させというパラダイムを考案した. 1つは言語情報が豊富な構造 (SOV構造) , もう一つは言語情報が豊富でない構造 (SV/OV構造) で, どちらの構造で学習した子どもの方が, 格助詞理解が容易なのかについて実験を行うというパラダイムの構築後 (2014年6月-12月) , それを用いた実験の準備およびパイロットスタディを実施した. (2015年1-3月)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の調査のうち1つをやり遂げ, その成果をMental Architecture for Processing and Learning of Language (MAPLL) 2015及び 日本認知科学会全国大会において発表することができた. また, 新奇格助詞を使用した新たなパラダイムを立案し, そのパイロットスタディも実施できた. 現在は, 調査2の本実験を実施できていることから, 概ね予定通りに進んでいるといえる. また, 今までで終了した調査2の成果について, 7月の認知心理学会で発表し, 広島大学教育学紀要論文集に投稿する予定でいる. このような進度で研究課題を遂行できていることから, 概ね順調であると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
現在, 研究課題達成のための3つのうちの1つ目の調査を終了し, 2つ目の調査について, 幼児を対象に実施している最中である. 今後は, 現在進行中の2つ目の実験について, 幼児を対象としたのちに小学生低学年を対象とし, 2つ目の調査を終了させる予定である. 具体的には, 調査2では, 動作主-被動者を標示する格助詞の学習がどのようになされるのかを探るために, どのような言語情報が格助詞学習に重要なのかを調べている. ここでは, 保育所および小学校の子どもたち5-7歳児を2群に分け, 人工格助詞 (動作主:ポ, 被動者:ビ) を, 一方の群には言語情報が豊富なSOV, もう一方の群には言語情報が豊富でないSV/OVの文で学習させ, どの文構造が学習により有効なのかについて, 調査を行っており, もし, SOVでの学習が有効であれば, SOVで格助詞を学習した子どもたちの格助詞理解が容易であるという結果になり, 子どもは格助詞学習に言語情報を利用していると考える. 一方, SV/OVでの学習が有効なのであれば, SV/OVで格助詞を学習した子どもたちの格助詞理解が容易であるという結果になり, 言語情報はさほど利用されていない可能性があると考える (~10月) . 調査2終了後, 格助詞の学習に重要な言語情報はインプット頻度の影響を受けるのかという点を明らかにするために, 調査2で, SV/OVでの学習が格助詞学習に有効であった場合, それはインプット頻度の影響のためなのか, それともSV/OVという構造特性によるものなのかを調べるために調査3を行う. 6-7歳の子どもたちを対象に, 人工格助詞をSOV, SV/OVでそれぞれ学習させる. 学習の際の頻度を, SOVが80%, SV/OVが20%に操作し, 学習後,実験2と同様に格助詞理解テストを実施する (~1月) .
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