細胞が適切な時期に,適切な場所に移動することは,動物の発生に重要である。ホヤのふ化直後の幼生の尾部には,数十個の前後一列に並んだ細胞群があり,“内胚葉索”と呼ばれている。私はこれまで,内胚葉索の細胞が,①尾部が退縮するよりまえに,前方に動き,胴部の左側に集まること,②変態後の幼若体では消化管のうち,腸に寄与することの二点を,カタユウレイボヤを用いて明らかにした。しかし,内胚葉索の細胞がどのように制御されて胴部左側へ移動するのかは未だに分かっていない。本研究では,内胚葉索細胞を可視化して,移動中のより詳細な挙動を観察する方法を確立することと,移動の制御機構を明らかにすることを目的とした。 まず,これまで行ってきた孵化後の幼生の観察では,内胚葉索の細胞が移動を開始する時期が特定できなかったため,発生を遡って調べる必要があると考えた。ただし,孵化前の胚を覆っているコリオンは左右非対称性の成立に必要であることが報告されているので,コリオンに包まれたままの胚を観察する必要がある。本研究で私は,固定胚でF-アクチンを可視化するファロイジン染色の条件やサンプルの透徹条件を工夫することによって,コリオン内の胚内部の細胞形態が観察できることを見い出した。一方,これまで内胚葉索を標識するのに用いてきた,Zipエンハンサーによるレポーター遺伝子では,早い時期での内胚葉索の判別には向いていないことが分かった。そこで,内胚葉索を標識する別の手法を検討している。
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