消化管は、動物にとって必須の基本構造である。脊索動物に属するホヤの若い成体(幼若体)にも明瞭な消化管構造があり、幼生が幼若体へと変態する間に形成される。幼生の尾部には、数十個の前後一列に並んだ細胞群があり、内胚葉索と呼ばれている。私はこれまで、内胚葉索を含む細胞群でKaedeを発現するカタユウレイボヤの系統(Zip-Kaede)用いて、内胚葉索の細胞が尾部から胴部左側に移動・集合すること、後方消化管に寄与することを明らかにした。しかし、移動中に細胞の形態や数がどのように変化するのか、集まった細胞群の中でどのような変化が生じて管の内腔ができるのか、は分かっていなかった。 本年度は、昨年度確立した "Kaede蛍光と、細胞膜を可視化するファロイジンの蛍光を両方とも取得する方法" を用いて、Kaede発現細胞の配置と細胞形態に注目し、後方消化管を作る細胞の細胞形態変化について詳細に解析を行った. その結果、後方消化管に寄与する細胞は、尾部から胴部に移動すると、大きく形を変え、直方体から細胞の丈が高くなり、その後より細長く密に並ぶ上皮細胞様に変化してゆくことがわかった。また、胴部へ移動した細胞から細胞分裂を開始することもわかった。後方消化管細胞は、移動中に大きくその性質を変えてゆくが、移動開始からの時間による内在性のものか、胴部の他の細胞からの影響なのかはわからなかった。胴部に集合した細胞群にはファロイジン染色ポジティブのfociが認められ、この部分が将来の内腔になる可能性が考えられた。また、ホヤは初期発生では細胞分裂の同調性や個体差がないこと等が知られているが、変態期には個体によって多様性があることもわかった。
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