研究課題/領域番号 |
14J06926
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
勇 昂一 京都大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 神経障害性疼痛 / 脊髄内浸潤 / マクロファージ / ミクログリア / アロディニア |
研究実績の概要 |
今年度は、末梢免疫系細胞が神経障害性疼痛の病態形成や脊髄内グリア細胞に与える影響について検討を行った。これまで、1種類の近交系マウス(C57BL/6J)を使用して検討を行ってきたが、マウス系統によって神経損傷に伴う免疫系細胞の応答性に違いがあり、神経障害性疼痛の病態形成に異なる影響を与えると考えられる。そこで、末梢免疫系細胞や脊髄グリア細胞の活性化に着目し、4系統の近交系マウスの神経障害性疼痛を比較検討したところ、C3H/HeSlcでは神経障害性疼痛に対して最も抵抗性を示すことが明らかとなった。さらに免疫組織学的検討により、C3H/HeSlcでは、後根神経節においてマクロファージが抗炎症性フェノタイプの特徴を示し、脊髄ミクログリアの活性化が他の系統に比べ弱いことを明らかとした。現在、神経障害性疼痛に抵抗性を示したマウス由来の骨髄細胞を、神経障害性疼痛に感受性を示すマウスへと移植した骨髄キメラマウス(あるいは逆パターンの骨髄キメラマウス)を作製し、末梢免疫系細胞の違いが、脊髄グリア細胞や神経障害性疼痛の病態形成に与える影響について検討を行っている。 また神経損傷後早期に損傷部位へと浸潤し、炎症応答の惹起に寄与すると考えられる好中球の、脊髄グリア細胞活性化への関与についても検討を行った。好中球の遊走抑制作用を有するコルヒチンを術前に投与したところ、損傷部位への好中球の浸潤が抑制され、炎症性メディエーターの産生が減弱し、機械的アロディニアの程度も弱かった。しかしながら、損傷7日後では顕著なアロディニアが惹起され、脊髄ミクログリアの活性化も観察された。このことから、好中球に由来する末梢での炎症応答を抑制しても、脊髄グリア細胞の活性化は非依存的に生じ、機械的アロディニアも惹起されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経損傷に伴う末梢免疫系細胞の脊髄内浸潤について、GFP骨髄キメラマウスにおける末梢免疫系細胞の挙動を、二光子顕微鏡を使用してリアルタイムで観察する予定であったが、in vivoにおけるマウス脊髄の安定した撮影プロトコルの確立が難航している。 一方、末梢免疫系細胞が脊髄ミクログリアの活性化に与える影響について、末梢マクロファージのフェノタイプに着目した検討を行った。これに関して、4系統の近交系マウスを用いた神経障害性疼痛の比較検討により、神経損傷後にマクロファージが抗炎症性フェノタイプに分化しやすく、脊髄ミクログリアの活性化および機械的アロディニアが弱いマウス系統C3H/HeSlcを発見できたことは、今後の検討において非常に有用であると考える。現在、C57BL/6JとC3H/HeSlc間での骨髄移植を行っているが、これまでに確立したプロトコルと違い、MHC class IIハプロタイプが異なるマウス間での移植のため、当初は骨髄移植後の生存率が著しく低かった。しかしながら、現在は生存率も改善し、骨髄由来末梢免疫系細胞が90%以上、ドナーマウス由来の細胞に置換されているキメラマウスの作製に成功している。骨髄キメラマウスはC57BL/6JとC3H/HeSlcそれぞれをレシピエントとし、全4週類の骨髄キメラマウスの作製を予定している。また、実験には骨髄移植6週後の骨髄キメラマウスを使用し、神経損傷早期と後期に分けて免疫組織学的に解析するため、時間の要する実験になることが想定されるが、骨髄移植のプロトコルが確立できたことから、今後の実験を円滑に遂行することがきると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
神経損傷に伴う末梢免疫系細胞脊髄内浸潤の経路の同定には、二光子顕微鏡を用いたin vivoイメージングによる脊髄内観察が有用であるため、引き続き適切な観察条件を検討する。同時に、神経損傷後の脊髄内環境の変化について、血液脊髄関門を構成するタイトジャンクションだけでなく、血管拡張作用を有するエイコサノイドや一酸化窒素の産生についても発現変動の解析を行う予定である。 骨髄キメラマウスの実験に関しては、C57BL/6JとC3H/HeSlc間での骨髄キメラマウスを作製し、末梢免疫系細胞が神経損傷早期や後期のアロディニアに与える影響、および脊髄グリア細胞の活性化に与える影響ついて評価する。末梢免疫系細胞の違いがアロディニアの程度に影響を与えれば、2系統のマウス間で神経損傷に伴う末梢免疫系細胞応答性の差について詳細な検討を行う予定である。これまでの検討から、神経損傷後のDRGマクロファージに差が認められているため、フローサイトメトリーを用いて神経損傷後のDRGからマクロファージを回収し、遺伝子の発現変動を解析する予定である。 一方、神経損傷後の脊髄ミクログリアの活性化に関しても、C57BL/6JとC3H/HeSlc間で応答性の違いに差が認められないか、ミクログリア初代培養系を立ち上げin vitroで評価を行う。神経損傷後に脊髄内グリア細胞の活性化に寄与すると報告される、ケモカインやサイトカインに対する反応性を、炎症性メディエーター産生量やmRNAの発現変動を指標に評価する。また、反応性に差が認められたメディエーターに関しては、マウスの髄腔内に投与し、機械的アロディニアやグリア細胞の活性化などをin vivoで評価し相関が認められるか検討予定である。末梢免疫系細胞のフェノタイプを標的として、脊髄内グリア細胞の活性化を抑制し、神経障害性疼痛の改善に繋げることができればと考えている。
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