免疫応答は遺伝的多様性により異なり、神経障害性疼痛感受性の個人差を生み出す要因の一つと考えられる。こうした感受性差は、マウス系統間でも認められ、そのメカニズム解明は病態の理解や新規治療標的の発見に繋がると考えられる。 複数の近交系マウスを用いたこれまでの検討から、坐骨神経結紮による神経障害性疼痛の程度はC57BL/6J(B6)が最も強く、C3H/He(C3)が最も弱いこと、また免疫組織学的検討より、C3ではB6に比べ神経損傷後の後根神経節(DRG)での抗炎症性M2フェノタイプのマクロファージが多く、脊髄後角でのミクログリア活性化が弱いことが明らかとなった。次に、骨髄移植によりB6/C3間の骨髄キメラマウスを作製し、各マウス由来マクロファージのDRGへの浸潤/フェノタイプや脊髄ミクログリア活性化と神経障害性疼痛との関連を検討した。その結果、神経損傷後にDRGで認められるマクロファージフェノタイプは、ドナーとなるマウス系統に依存し、神経損傷後早期の神経障害性疼痛と相関すること、一方、神経障害性疼痛慢性期では脊髄ミクログリアの活性化と相関することが明らかになった。さらにマウス系統間のミクログリア応答性を比較したところ、C3由来ミクログリアはB6由来ミクログリアに比べ、特定の炎症性メディエーターに対する応答性が低下していた。またこのメディエーターの髄腔内投与により惹起されるアロディニアはC3では認められなかった。 これらの結果から、DRGマクロファージは神経障害性疼痛の早期の形成に寄与すること、また慢性期の感受性差には脊髄ミクログリア応答性の違いが関与することが示唆される。
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