研究実績の概要 |
今年度では平成28年度の交付申請書に記載の研究実施計画に基づき疎水性タグを用いた液相合成法によるインスリンの部分配列の合成を行った。しかし合成中に生じる副産物の影響で純度が著しく低下し、副産物の解析と副産物回避の経路・手法の構築に時間を要している。一方で、当研究課題が対象とするヒトインスリンに関して、現在医薬として流通している遺伝子組み換え生物による生物的合成法で得られた既製品ではカバーできない領域が明らかとなり、患者の個体差や疾患の程度を考慮した‘完璧な’分子の開発が必要であることが認知されつつある(Nature Reviews Drug Discovery,15,425‐439(2016))。その観点から鑑みて、化学的手法によって非天然型の新規分子を創生することは上述した課題を克服する上で実現可能性が高く有効な手段であると位置づけられる。しかしながらそのような分子の機能や安全性等を解明・評価する上で、従来法での評価はそれに費やす労力や信頼性等の観点から価値を失いつつあり、より信頼性の高く包括的な情報から大まかな見通しを戦略的につける必要が生じている。そこで当該年度では化学的手法により合成されたペプチドが生体に与える影響を解明する上で必要な次世代シークエンサーを用いたトランスクリプトーム解析手法を確立することを目的として、過去の全合成研究によって当該の解析に用いるのに十分な高純度で得られているMahafacyclin Bを用い哺乳類細胞CHO-K1の全遺伝子発現変動解析を行った。細胞応答誘導試験、実験妥当性指標である情報エントロピーによる薬剤投与濃度の実験区の評価、発現変動比較解析および発現変動遺伝子へのアノテーションの付与を通した一連の結果より、このペプチドが哺乳類細胞の遺伝子発現に与える影響や細胞毒性、医薬として予想される特性を明らかにすることができた。
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