研究課題/領域番号 |
14J06987
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 敦志 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | G-quadruplex / ヒトテロメアDNA |
研究実績の概要 |
本年度はグアニン連続配列(GGG配列)を6つ有するヒトテロメア鎖DNAでのG四重鎖形成に関する研究を行い、学術誌への投稿と国内学会での口頭発表を行った。 in vitroにおけるG四重鎖形成の研究は、主にGGG配列を4つ有する21~27塩基 の一本鎖DNAを対象として行われてきたが、GGG配列を5つ以上持つ場合のG四重鎖形成に関する研究は少なく、詳細はあまり知られていない。ヒトテロメア 3'-末端の場合にはTTAGGG 連続配列が 150 塩基以上続くため、理論的にはどの4つのGGG配列からも四重鎖を形成しうるが、実際に優先的に形成される位置と構造は未だ明確でない。これらを明らかにするため、GGG配列を6つ含むヒトテロメア鎖のG四重鎖形成に関する研究をおこなった。 ① 観察対象として蛍光標識一本鎖DNA(3'-FAM-TAGGG(TTAGGG)5TT-TAMRA-5', 37htel)と、その一部をイノシン(I)に置換した一本鎖DNAの合成を行った。GGGの中心のGをIに置き換えたGIG配列はG四重鎖形成の構成部位でなくなるため、形成する構造を制限できる。 ② 異なる5種類のG-I置換ヒトテロメアDNAと37htelを熱力学的な解析を行った。その結果、比較的長鎖のヒトテロメア鎖がK+存在下において3'-末端で優先的にG四重鎖を形成すること、また形成される四重鎖構造はコア部分をとりまく“ループ鎖”が最も短いものであることが明らかになった。 ③ 加えて、流体力学半径の変化を蛍光相関分光法(FCS)を用いて一分子レベルで観測することで、37htelはG四重鎖形成の中間体と考えられている“グアニン三重鎖”を形成しないことが示唆された。 以上の結果をまとめて第36回光医学・光生物学会で口頭発表を行い、またこれらの結果に関する詳細な議論が学術誌“RSC Advances”へ掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
生細胞へ導入する前に、カリウムイオン濃度以外の外部環境がG四重鎖形成に与える影響を調査したところ、特にpHの変化に対して複雑な挙動を示した。この結果に対して未だ十分な考察が得られていないため、予定していた「生細胞中での観察」を進めることができなかった。この点では達成度が十分でないと考えられる。 しかし一方で、上記の成果報告の通り、in vitroにおけるG四重鎖の構造変化に関する新たな知見が得られた点は評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究テーマについて、大幅な変更が必要になった。 pH変化によるG四重鎖形成への影響が予想以上に大きく、生細胞中での観察へ移行する上での障壁となっている。生細胞中では、様々な環境が不均一であり、pHに関しては各細胞小器官によってpH=5-8程度の幅を持っている。そのため、生細胞中におけるDNA構造変化の解析を行う上で、G四重鎖形成DNAのpH応答に関する知見を得ることが大変重要となる。 以上の事由により、今後の推進方策としてG四重鎖構造形成のpH依存性に関する詳細を明らかにすることを目指す。G四重鎖構造はカリウムイオンへの配位によって安定化されるが、四重鎖構造形成の最も基本的な要素はグアニン同士の水素結合である。この水素結合のpH依存性を調べることで、G四重鎖構造のpHへの応答に関する知見が得られるはずである。具体的には、グアニン同士の水素結合の変化を直接観察できる可能性をもつ、Raman分光測定を考えている。
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