研究課題/領域番号 |
14J06998
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
羅 智文 東京理科大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 脂肪肝 / Toll-like Receptor 2 |
研究実績の概要 |
申請者は肝臓Stellate細胞における炎症シグナル活性化の機構として、Toll様受容体 (TLRs) を介するシグナルに着目し、TLR2KOマウスを用いて、肥満による肝癌誘発実験を行った。その結果、TLR2KOマウスにおいては肝腫瘍形成が著しく抑制された。そこで本研究ではTLR2が脂肪肝の環境下でどのような機構で肝腫瘍の形成を促進するのかを解明することを目的とする。 平成26年度では、申請者は肥満誘導性肝癌においてTLR2がStellate細胞に発現していることを見出した。更に肝臓の腫瘍部における炎症シグナル経路の活性化と炎症性サイトカインの発現を調べた結果、TLR2KOマウスでの炎症シグナル経路の活性化マーカーの発現と炎症性サイトカインの発現が低下していることが観察された。 平成27年度では、このTLR2よる炎症性サイトカインの誘導が細胞老化を起こしたStellate細胞において増幅されるのかを検討した。申請者らの先行研究において、肥満誘導性肝癌の癌部において、腸内細菌の代謝物DCA(デオキシコール酸)が肝臓に多く蓄積していることを見出していた。そこで、申請者はDCAが肝臓Stellate細胞の細胞老化を誘導する可能性があると考えた。このことを検証するために、申請者はStellate細胞を単離し、DCAを添加した培地で8日間培養した。その結果、DCA含有培地で培養したStellate細胞において細胞老化マーカーであるp21とp16の発現が上昇し、更にTLR2の発現も上昇することが確認された。そこで、細胞老化誘導したStellate細胞にTLR2のリガンドを投与したところ、炎症性サイトカインの発現がより強く誘導されることを見出した。このことから、恐らく肥満誘導性肝癌において、DCAにより細胞老化が誘導されたStellate細胞ではTLR2が高発現し、TLR2シグナル経路を介して炎症性サイトカインの遺伝子発現が誘導され、その結果、肝腫瘍の形成を促進する可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は肝臓Stellate細胞における炎症シグナル活性化のメカニズムとして、Toll-like Receptors (TLRs) を介するシグナルに着目し、TLR2KOマウスを用いて、肥満による肝癌誘発実験を行った。その結果、野生型のマウスに比べてTLR2KOマウスにおいては肝腫瘍形成が著しく抑制された。そこで本研究では①TLR2が脂肪肝の環境下で、どのようなリガンドを認識し炎症シグナルカスケードを活性化するのか、さらに②その活性化された炎症シグナルや分泌されたサイトカインがどのような機構で肝腫瘍の形成を促進するのかを解明することを目的とする。 平成26年度では、申請者はTLR2の発現細胞を同定し、更にTLR2がTLR1と複合体を形成しが肝腫瘍の形成及び成長に起用していることを見出した。また、申請者もTLR2の新規リガンドとなる候補物質を絞り込んだ。 そして平成27年度では、申請者はTLR2が脂肪肝の環境下での肝腫瘍発症促進機構を解明するために、肝癌部の微小環境における肝臓Stellate細胞の役割に着目した。申請者はマウスの肝臓から肝臓Stellate細胞を単離した後、肥満誘導性肝癌の癌部において蓄積する腸内細菌の代謝物DCAを培地に添加し、8日間培養した。その結果細胞老化が誘導された肝臓Stellate細胞はTLR2のリガンドに強く反応し、炎症シグナルが活性化した。 これらの結果により、脂肪肝においてで増加した代謝物とTLR2が肝腫瘍の発症に関わっていることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの初代培養肝臓Stellate細胞を用いたこれらの結果を基に、恐らく肥満誘導性肝癌においてDCAにより細胞老化が誘導されたStellate細胞ではTLR2が高発現し、TLR2シグナル経路を介して炎症性サイトカインの遺伝子発現が誘導され、その結果、肝腫瘍の形成を促進することが考えられる。これからはマウス個体を用いて、肥満状況下での肝臓Stellate細胞におけるTLR2シグナル経路の活性化と、肝がんを進展させるメカニズムの詳細を解析する予定である。また、TLR2により活性化された炎症シグナルや分泌されたサイトカインがどのような機構を介して肝腫瘍の形成を促進するのかを調べるために、TLR2の下流シグナル因子を欠損したマウスなどを用いて更なる詳細な解析を進める予定である。なお、これらのマウスに肥満を誘導した上で肝癌を誘発のに、30週間が必要とされるため、実験準備も平成27年度中に開始した。
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