研究課題/領域番号 |
14J07013
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
櫻井 美穂子 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 災害対応 / レジリエント / 情報システム構築 / 基礎自治体 / フルーガル |
研究実績の概要 |
東日本大震災で被災した岩手・宮城・福島3県内の13市町ICT部門を対象とした震災発生時のICT状況及び復旧プロセス調査(2011年11月~2012年1月実施)から、サーバ室などの建物は強固であり最小の被害であったものの (Robust)、情報システムを含むICT全般関連は壊滅的なダメージを受け、その脆弱性が明らかとなった。 従来の情報システム (IS) マネジメント研究は、「システムの信頼性 (Reliability) を、システムダウンを防ぐことで達成しよう」という前提に立っている。しかしながら、今後の災害対応を考える上では、想定されうるどのような災害にも対応可能な強固なシステムを構築するのではなく、災害で停止した後に復旧しやすい (Resilient) 情報システムをいかに構築するかが重要となる。 14市町のフィールド調査及び関連する自治体への聞き取り調査、関連先行研究を分析したところ、「復旧しやすい (Resilient)」とは、事前に予測しなかった「現場のニーズに即した機能をいち早く獲得する」能力によって達成されるとの結論に至った。 このような能力を実現させる概念として、「質実な」という意味を情報システムに取り入れたFrugal information system (Watson et al. 2013) 論が有効となる。Frugal論を「災害に強い」情報システム構築にあてはめると、災害が起こる前にあらかじめ遍在性 (Ubiquity) のあるネットワークと一貫性 (Unison)のあるデータベースを構築・準備し、災害が発生した後は汎用性 (Universality) の高いシステムを活用し、唯一性 (Uniqueness) のある識別子によってヒトやモノを認識することで達成されるとの結論となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、東日本大震災を受け、災害に強いICTとはどのようなものか考察し、将来構築すべき情報システムのあり方を論じることを目的としている。平成27年2月に博士論文「Design of a Resilient Information System for Disaster Response: Lessons from municipal government systems under the Great East Japan Earthquake crisis(基礎自治体におけるResilientな情報システム構築)」を提出し、同3月に博士号を取得した。 平成26年度は、米国ジョージア大学のワトソン教授の指導を受けるために渡米し、学会への投稿論文及び博士論文の執筆に取組んだ。米国滞在中、情報システムマネジメント分野で世界最高峰の学会(International Conference on Information Systems)に投稿し、採択率16%の狭き門を突破し、採択された。さらに、当学会に付随して開催される、世界中の博士課程学生を集め合宿形式で研究をブラッシュアップするドクトラルコンソーシアムへの参加も認められ、世界中のPh.D学生とのネットワーキングを行った。平行して博士論文執筆に取組み、平成27年初頭に論文を完成し、審査委員会を実施、博士課程2年目ながら平成26年度での早期学位取得が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、特別研究員PDに資格変更し、引き続き研究に取り組む予定である。同26年度中に執筆・投稿し採択されたCrisis Management 分野の学会での発表が控えており、世界中の研究者との更なるネットワーキングが期待される。 博士論文で得られた示唆は、当該研究課題に対し、将来の災害に備え強靭なシステムを改めて構築するのではく、私たちが日ごろ利用しているシステム環境を最大活用することが、本当の意味で「災害に強い」を実現することができる、というものである。この論文執筆の過程において、平成26年11月に、宮城県登米市において、「災害時の自治体及び住民間の情報共有システムの実証実験」を実施した。当実験は、従来は自治体災害時業務での利活用が想定されていなかったスマートフォンを用いて、災害発生後の避難所における業務(主に住民との情報共有)を遂行することを目的とした。具体的には、本研究の提唱する「フルーガル」概念を基に設計・構築されたアプリケーションを活用して、異なる場所から業務に必要なデータベースへのアクセスがスムーズに可能となるか否か、電話番号を用いた本人確認が遂行可能かどうかを実証するものであった。結果、前者のデータベースへのアクセスについては業務上問題がない程度に行えることが確認できた。一方で、後者の本人確認については、個人情報の観点から実施することができなかった。平成27年度はこの実験結果の詳細な検証と汎用性向上のための研究を行う予定である。
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