昨年に引き続き,温帯3地点(茨城県つくば市,岡山県岡山市,鹿児島県鹿児島市)と亜熱帯1地点(沖縄県西原町)を調査地として,おおよそ月に1度の頻度でヤマトシジミを採集した。採集したヤマトシジミ個体群は4地点すべてで昨年同様高いWolbachia感染率を示した。Wolbachia密度の季節変化を温帯1地点(鹿児島県鹿児島市)と亜熱帯1地点(沖縄県西原町)で比較したところ,温帯では昨年と同様に春から秋にかけてWolbachia密度が減少していくのに対し,亜熱帯では春季から秋季にかけてWolbachia密度が高くなっていることが明らかになった。この2地点での比較では,月と個体群の交互作用が有意に異なることが明らかとなったため,Wolbachiaの密度変化には環境因子として気温が非常に密接にかかわっていることが示唆される。 ヤマトシジミにおけるWolbachiaの繁殖操作を調べる為に,ヤマトシジミの飼育を行った。野外から採集してきたメス個体をケージ内で産卵させ,孵化した幼虫に抗生物質入りの餌を与えることによって宿主体内からWolbachiaを除去した系統(Tc)を作成した。コントロール区(C)には通常の餌を与えた。2世代続けて抗生物質処理した後,コントロール区と同様に通常餌を1世代のみ与え,抗生物質による影響を排除した。4世代目にコントロール区と処理区の交配実験を行った。 交配実験ではC x C,C x Tc,Tc x C,Tc x Tc(メスxオス)の組み合わせで,3頭のメスと10頭のオスを同時に飼育することによって交尾を促した。その結果,全組み合わせで500卵以上の産卵を確認した。さらに,Tc x Cでのみ幼虫が孵化しなかったことから,ヤマトシジミのWolbachiaは細胞質不和合を行うことが明らかとなった。また,日本国内における高感染率の理由としてこの細胞質不和合による個体群内での蔓延が予想される。
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