研究課題/領域番号 |
14J07030
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
杉 達紀 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | トキソプラズマ / ハイスループットスクリーニング / cAMPシグナル / 潜伏感染 |
研究実績の概要 |
①潜伏感染誘導効果を効率よく評価できる実験系の確立。急性⇔潜伏感染の状態変化を効率的に評価する系をルシフェラーゼシステムにより測定する系を確立した。また、この系を用いて、潜伏感染期状態を誘導もしくは、誘導阻害する影響因子について、低分子化合物ライブラリのスクリーニングの進めている。 ②潜伏感染と急性感染を同じ培養条件で示す原虫株の開発 トキソプラズマ原虫の潜伏感染および急性感染における宿主細胞制御を明らかにするには、同じ培養条件下で急性感染で増殖する原虫株(甲)と潜伏感染で増殖する原虫株(乙)の影響を比較することが重要である。甲株については従来の研究室株を用いればよいが、乙株については、これまで報告されていない。TgMAPK1を阻害することで、潜伏感染状態の遺伝子発現が亢進することを利用して、TgMAPK1遺伝子の阻害を行える原虫株を乙株とするために作製した。この株を用いたTgMAPK1の詳細な解析により原虫の細胞分裂様式の制御に必要であることが分かった。また細胞分裂の制御が崩れている原虫は自然状態の潜伏感染状態を模しているとはいえないため、代替となる乙株の作成を検討した。 cAMPシグナルが潜伏感染および急性感染の切り替えに関与している先行研究を参考にし、トキソプラズマ原虫におけるcAMP依存性プロテインキナーゼ(TgPKA)について解析および、ノックアウト原虫作成を行った。トキソプラズマ原虫が保有する3つのTgPKAのうち、TgPKA1のノックアウト原虫においてストレス刺激がない中でシスト壁を形成する組み換え原虫を得ている。これは、シスト壁というブラディゾイトを決定づける特徴に伴った宿主原虫の相互作用の解析には非常に有用である道具である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画において ①本研究においては、原虫の潜伏感染を効率的に評価できる系の確立 ②宿主細胞の培養条件に変化を与えずに、原虫に潜伏感染を誘導できる系 以上の2つの確立を目指した。①については、急性⇔潜伏感染の状態変化を効率的に評価する系をルシフェラーゼシステムにより測定する系を確立しており、課題が計画通りに進展している。さらに確立した系を用いて、潜伏感染期状態を誘導もしくは、誘導阻害する影響因子について、低分子化合物ライブラリのスクリーニングを進めており、次年度以降の計画を先取りして推し進めている。 ②については、当初使用する予定であった、TgMAPK1遺伝子の阻害ができる原虫株において、TgMAPK1が潜伏感染への制御以外に原虫の細胞分裂様式の制御に必要であることが分かった。細胞分裂の制御が崩れている原虫は自然状態の潜伏感染状態を模しているとはいえないため、代替となる原虫株の作成を進めた。cAMPシグナルが潜伏感染および急性感染の切り替えに関与している先行研究を参考にし、トキソプラズマ原虫におけるcAMP依存性プロテインキナーゼ(TgPKA)について解析および、ノックアウト原虫作成を行った。トキソプラズマ原虫が保有する3つのTgPKAのうち、TgPKA1のノックアウト原虫においてストレス刺激がない中でシスト壁を形成する組み換え原虫を得ている。この株を用いることで、急性感染および潜伏感染時の原虫が果たす宿主への影響を培養条件を変化させることなく観察ができる。今年度達成する計画が順調に進んていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
潜伏感染に影響を与えるシグナルの推定を行うために、潜伏感染の評価が迅速に行えるレポーター原虫を用いて、低分子化合物ライブラリをスクリーニングし、潜伏感染を誘導する化合物の同定を目指す。 TgPKA1ノックアウト原虫において観察された潜伏感染制御の崩れが、TgPKA1の活性に由来するものであるのかを確認するために、TgPKA1相補原虫を作製し、性状を確認する。シスト壁の構築が通常の潜伏感染をどの程度摸しているのかを評価するために、TgPKA1ノックアウト原虫および親株の遺伝子発現変動についてRNA-seq法にて解析を行う。TgPKA1以外のPKAシグナルの影響を解析するために、TgPKA2およびTgPKA3についてもノックアウト原虫の解析を進めていく。TgPKA1ノックアウト原虫においては、シスト壁が通常の培養条件で検出されており、宿主と寄生虫との間のインターフェースが急性感染時と異なることが予想される。シスト壁を介した潜伏感染時の宿主間原虫相互作用の解析を行うために、親株およびTgPKA1ノックアウト株感染時の宿主細胞の遺伝子発現変動についても解析を進める。 これまでの研究にてcAMPシグナルの経路においてTgPKA1が潜伏感染と急性感染の制御を担うことを明らかにしているが、その分子機序は明らかにはなっていない。TgPKA1の下流シグナルを明らかにするために、PKAの基質配列を認識する抗体で免疫沈降したペプチドを用いた解析を用いる。この手法をTgPKA1ノックアウト、親株およびTgPKA1相補原虫で比較をすることで、TgPKA1に依存したPKA活性の基質を同定することを目指す。同定された遺伝子については、ノックアウト原虫の作成および潜伏感染状態の評価の解析を進めていく。
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