本年度は、物質内包リポソームによるドラッグデリバリーシステムの評価基盤として、灌流可能な血管流路を有した皮膚モデルの構築、評価及び応用可能性の検証を目指した。 皮膚モデルは、化粧品や薬剤の試験に使用されている。しかしながら、これまでの皮膚モデルには灌流可能な血管構造が存在せず、外部から培養液や試薬を灌流することが困難だった。報告者は昨年度、灌流可能な血管構造を有した皮膚モデルを構築した。本年度は、構築した皮膚モデルの形態・機能的な評価、及び創薬分野における応用可能性の検証を実施した。 まず形態の評価を実施した。本皮膚モデルの表皮は、従来皮膚モデル相当の厚みであり、分化も確認された。さらに血管流路壁面には内皮細胞マーカであるCD31が検出された。機能の観点では、表皮がバリア機能を有することを電気計測により確認し、また血管流路については分子サイズ選択的な透過性及び酸素・栄養供給能があることが確認された。これらの結果から、本皮膚モデルが、皮膚モデル及び血管のモデルとしての基本的な性質を備えていることが示された。 本皮膚モデルの表皮に、カフェイン及び二硝酸イソソルビド(ISDN)を塗布し、真皮下の培地及び血管流路内の培地を一定時間ごとにサンプリングした。この結果、両薬剤がいずれのサンプルからも検出され、経時的に累積透過量が増加した。また、ISDN透過量はカフェイン透過量より大きかったが、これはヒト皮膚における両薬剤の透過性の違いと一致した傾向である、さらにVEGFを培地中に添加したところ、血管流路内の培地への透過量が増加した。生体においてもVEGFを添加することで血管の透過性が上昇することが知られており、従って本研究の血管流路が生体に類似した内皮機能を有していることが示唆された。以上の結果から、本研究の皮膚モデルは化粧品・医薬品の開発や皮膚の基礎研究分野に貢献すると期待できる。
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