研究課題/領域番号 |
14J07077
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
上田 知夫 首都大学東京, 人文科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 言語哲学 / 意味論 / 語用論 / 命題的態度帰属 / 固有名 / 地名 / 国際研究者交流 / フランス |
研究実績の概要 |
1.命題的態度の帰属について:2014年度前半は,信念や欲求を始めとする命題的態度の帰属とごっこ遊びで用いられるようなふり(pretense)の果たす役割の関係について検討することを目標に定めて研究した.ある人に信念を帰属し,それを報告するとき,報告者は信念保有者の視点に立って報告していると考えられる.これをある種のふりであると考えて分析する手法は,共指示的な固有名に関する所謂「フレーゲのパズル」の解決の1つとして提案されてきた.このような議論を展開するCrimminsらの議論を検討しつつ,博士論文の公刊のための作業を進めた. 2.発話の主張力について:欲求に具体的なターゲットを定めた研究の前段階として,命題的態度帰属の報告や引用などで見られる,発話の主張力の取り消しというトピックに着目して研究を進めてきた.この研究を遂行するために,2014年度は後半のフランス・パリに研究滞在し,パリの受入研究者や同僚たちと議論を重ねてきた. さらに博士課程の頃から継続的に取り組んでいる課題として,概念役割意味論の検討を進めてきた.概念役割意味論とは,ある主張の意味内容を,その主張が多くの主張や信念の間の推論連関に占める役割と同一視する理論である. 3.固有名の意味について:研究計画では,2015年度に実施する予定であった,指示対象を持たない空な固有名についての研究の一部を先取りし,空でない通常の固有名の意味について2つの側面から検討した.1つは,指標詞説の検討である.固有名の発話とその指示対象の関連に関しては,とりわけ,同じ綴りを名前として持つ2人が同じ名前を持つのか,それとも2つの名前は単なる同音異義語なのかを巡って議論がなされてきた.指標詞説は前者の立場に立つ.もう1つのテーマは,地名が何を指示するのかに注目し,個々の地名の発話の指示対象が具体的な領域であるという立場を検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.命題的態度の研究については,博士論文としてまとめた草稿を,De Gruyter社に投稿し,Epistemische Studienというシリーズの編集者による査読を経て,そのシリーズの一巻として出版する契約をかわした.また,成果の一部を,ミュンスター大学で開催されたドイツ哲学協会の研究集会で口頭発表した. 2.本年度後半のジャン・ニコ研究所における研究滞在中,受け入れ研究者との議論を通じて,欲求についての検討の前段階として主張力と命題的内容の間の関係の問題に着目する必要性を理解したので,計画を若干変更し,まずはこの課題に取り組むことにした. 一方で,概念役割意味論については,研究成果をまとめて投稿した論文の査読結果が返ってきたので,コメントに対応すべく草稿を改め,再投稿した. 3.2015年に実施する予定であった研究の一部を先取りして,固有名の指標詞説を検討した草稿を準備し,その成果を日本大学で開催された国際ワークショップ"Workshop on Meaning, Quantification and Context"で発表した. 地名の指示対象の研究についても,これまでの研究成果をまとめてドイツ・シュトゥットガルト大学で開催された国際ワークショップ"Naming Matters"で発表した.
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今後の研究の推進方策 |
主張力および地名についての研究は,首都大学,および,研究滞在中のジャン・ニコ研究所それぞれの受入研究者の先生方,および,同僚たちとの議論を通じて,草稿を改善する方向性が得られたので,得られた成果を元にそれぞれの草稿をさらに修正した上で,論文として投稿することを目標とする. さらに,上記の研究を発展させて,2015年度は空な固有名についての検討を開始する. 上記の研究のために,2015年度は引き続きジャン・ニコ研究所(フランス・パリ)に研究滞在する.
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