研究課題
本年度,中心的に検討したのは,命題的内容の統一性についてである.命題的内容とは,わたしが平叙文(例えば,「aはbが好きだ」)を用いて主張する表現する内容であり,これは真偽が問えるようなものである.命題的内容についての重要な問題の1つは,文部分の持つ意味論的値との関係についてである.平叙文に現れる固有名(上の例では,“a”や“b”)はある特定の対象を指示し,そして,一項述語が性質を,二項述語(上の例では,「好きだ」)が関係を表現しているとするとき,これらを単純に列挙しただけでは命題的内容とは呼べないように思われる.それでは,文部分の意味内容を1つの命題的内容に統一するのは,何か.これが,命題的内容の統一性の問題である.この問題は,例えば,ラッセルによって議論されて来た.また近年でも,Soames, King, Collinsといった論者によって盛んに議論されている問題である.本年度の研究は,CollinsやKingの議論を検討した.中でも,本年度後半は,統語論的な構造に着目して,命題的統一性を説明しようとするKingの議論を検討した.この研究は,ジャン・ニコ研究所(フランス)における在外研究中の期間に遂行し,その中間的結果を研究所のセミナーで口頭で発表することができた.さらに以前から行ってきた検討についても,それぞれ結果を発表することができた.とりわけ,地名については,4月に国内の学会で発表し(この業績については昨年度報告済み)た.また,その成果の一部をまとめた論文草稿を投稿したところ,11月にキプロスで開催された国際会議に採用され,口頭発表した.さらに論文が,Springer社から出版された論文集に掲載された.また,特別研究員奨励費を用いた国際会議ではないが,在外研究中は,ジャン・ニコ研究所のコロキウムのオーガナイザーの1人として活動することができた.
2: おおむね順調に進展している
主として,以下の2点が理由である.1. これまでの仕事が,ある程度成果になってきている.第1に,研究計画でも言及した博士論文の出版義務を果たすことが出来た.また,地名についての検討は,その中間的成果を出版することができた.加えて,概念役割意味論を検討した論文が,査読の結果,雑誌への掲載が決定し,来年度,出版される見込みである.2.意味論的ふりの概念の基礎になっている,判断や主張と主張の表現する命題的内容との間の関係についての検討を,命題的内容の統一性という問題を通して検討し始めることが出きた.命題的内容の統一性については,まだ成果を発表するところまで検討が進んでいるわけではないが,この問題の検討を通じて,これまでの研究上の問題設定に整理がつけられてきた.
2018年度も引き続き,命題的内容の統一性に注目して,議論を進めたい.今年度は,主張(発話)の意味内容としての命題的内容とは言いながら,実際には,研究の焦点が,文の表現する命題的内容と個々の文部分の意味内容の間の関係にあった.本年度は,主張がどのような寄与を果たしているかに着目して,検討することを目指す.この研究を遂行するために,首都大学東京の受入研究者である松阪教授,および,首都大学東京の同僚たち,そして昨年度までの在外研究の受け入れ先であったジャン・ニコ研究所の方々とも,議論を重ねていく予定である.主張文の発話が持つ規範的側面を捉えるための理論の一つとして,概念役割意味論に着目する.
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
Modeling and Using Context: Ninth International and Interdisciplinary Conference, CONTEXT 2015, Larnaca, Cyprus, November 2-6,2015. Proceedings
巻: n/a ページ: 315-326
10.1007/978-3-319-25591-0_23