本年度は、(1)概念役割意味論についての論文が公刊され、さらに(2)命題的内容の統一性についての議論の検討を進めた。以下、この順番に報告する。 1. 概念役割意味論についての論文公刊 主張と主張の意味内容をつなぐ理論の1つとして、概念役割意味論がある。概念役割意味論の研究については、その成果をまとめて『科学哲学』誌に投稿した論文が本年度再録された。この論文では、野矢(2011)が展開する相貌論を概念役割意味論の一種として位置づけ、それを信念帰属の報告の分析に応用することを試みた。 2. 命題的内容の統一性について ある文が発話された時に表現する内容を、命題的内容(propositional content)と呼ぶとき、命題的内容は、大別して、構造化されたものと構造化されていないものの2種類にわけられる。2015年度に引き続き2016年度も、前者の構造化された命題的内容について検討した。構造化された命題は、しばしば、要素となる表現の意味内容からなる順序列として表現される。しかし文部分が表現する意味内容の単なる寄せ集めや、それらを単に並べただけのものは、構造化された命題とは呼べない。では、命題的内容に統一を与えているものは何か。これが、命題的内容の統一性(unity of propositional content)の問題である。この問題を検討する際に、本年度は、とりわけフレーゲの意義概念、具体的には、主張文の意義である思想とその部分表現の意義の間の関係に着目した。例えばHanks (2015)は、表現のレベルや指示対象(あるいは、フレーゲの言うBedeutung)のレベルと異なり、意義のレベルでの関数と充足の概念は意味をなさないと考える。このフレーゲの思想に関わる問題の検討は、2017年度以降も引き続き検討していきたいと思っている。
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