研究課題/領域番号 |
14J07081
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
窪田 陽介 東京大学, 数理科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
キーワード | 指数理論 / スペクトル流 / トポロジカル絶縁体 / 捩れK理論 / 粗幾何学 |
研究実績の概要 |
スペクトル流を含む指数理論の,トポロジカル絶縁体の理論への応用について研究を行った. まず準備として,C*環の捩れK理論について道具を整備する研究を行った.Wignerの定理によると,量子力学の対称性は線形/反線形なZ_2次数付き射影表現によって与えられる.このような対称性を扱えるよう,捩れK理論を(亜)群作用を持つC*環に対して定義し,KK理論のKasparov積やGreen-Julgの定理などの基本的性質を調べた.また,トポロジカル絶縁体の定式化に有効なvan DaeleによるZ_2次数付きBanach代数のK理論の定式化を捩れK理論に一般化した. 次にこれらを用いて,固体物理学におけるトポロジカル相を調べる数学的枠組を整備する研究を行った.まず,任意の量子力学の対称性を持つ系に対して,位置空間の距離構造に制御されたトポロジカル相という概念を導入した.この新しい枠組は粗幾何学の概念を用いて記述され,10種類のCT対称性を持つ系に対する先行研究の多くを再現するだけでなく,回転や反転に関する対称性を持つ系のような新しい例を多く含む.加えて,準結晶のような粒子が周期的に整列していない場合についてもトポロジカル相を扱うことができる.次に,これらのトポロジカル相に対して,粗指数理論とKK理論を組み合わせて指数と呼ばれる不変量を定義した.これは量子Hall系のHall伝導度やスピン量子Hall系のKane-Mele不変量といった従来知られている不変量を一般化したものになっている.系が並進不変なときには,この不変量はBrillouinトーラス上のDirac錐を数えることによって与えられるが,これは対称性がある場合における結合スペクトル流の捩れ同変な一般化に他ならない.最後に,これらの指数に対してバルク(内部)とエッジ(境界)の指数が一致するというバルク・エッジ対応の証明を与えた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画にあった部分多様体への局所化,特異ファイバーの寄与についての研究は,具体的な進展が得られなかった.一方で,トポロジカル絶縁体への指数理論の応用については,当初想定していなかった多くの進展が得られている.現時点で得られた結果は結合スペクトル流そのものとは関係なく記述されているが,そのアイデアは物理とのアナロジーなどにおいて非明示的にうまく生かされている.
|
今後の研究の推進方策 |
方針を転換し,現在順調な進展が見られるトポロジカル絶縁体への応用についての研究を進める.より具体的には,反転対称性を持つ系などの個別な場合に対して,抽象的なやり方で定義された指数を具体的に計算する処方箋を与えることを一つの目標としている.特に系が併進対称性を持つ場合には,これは結合スペクトル流のZ_2作用同変な一般化に他ならないことが期待される.
|