研究課題
虐待や育児放棄など幼少期において劣悪な養育環境に曝されることは、脳の構造・機能に継続的かつ重大な影響を引き起こし、成長過程や成体期における鬱病等の精神疾患への罹患率を高めることが報告されている。また近年、児童虐待経験者において、報酬に関連した課題遂行中の脳の神経活動と報酬に対する感受性の低下が見られることが報告されている。報酬系の破綻は、薬物依存症や摂食障害、社会的行動の異常を引き起こす原因にもなりうる。しかし、幼少期ストレスが成長後の報酬行動に影響を及ぼす分子基盤は明らかになっていない。そこで本研究は、幼少期ストレスモデルである母子分離を用いて、報酬系神経回路に焦点を置き、幼少期ストレスと報酬関連行動との関係を明らかにし、報酬系に影響を及ぼす分子基盤の解明を目指す。まず、母子分離負荷マウスの作製を行い、成体期において条件付け場所嗜好試験を用いて、嗜好性食餌に対する報酬行動への影響について検討を行った。また、報酬系神経回路である中脳辺縁系に焦点を置き、ドーパミン合成酵素およびドーパミン受容体の発現を調べた。その結果、母子分離群の雌では、報酬探索行動の低下と側坐核におけるドーパミンD1受容体の発現低下を示すことを明らかにした。さらに、D1受容体の発現低下を引き起こすメカニズムを明らかにするため、D1受容体のプロモーター領域においてDNAのメチル化状態についてバイサルファイトシークエンス法を用いて解析を行った。その結果、プロモーター領域におけるメチル化の増加が認められた。これらのことより、幼少期ストレスは、エピジェネティックな機構を介して、側坐核のドーパミンD1受容体の発現低下を引き起こし、報酬探索行動の異常を惹起することが示唆された。本研究の成果は、幼少期における養育環境の重要性を示すと共に、幼少期ストレスが引き金となりうる精神疾患等の予防・治療に繋がる重要な知見となると考える。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
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