研究課題/領域番号 |
14J07111
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
山下 惠理 東京外国語大学, 総合国際学研究院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | ろう文化 / 手話 / フィリピン / キリスト教 / ろう教育 / 言語教育 |
研究実績の概要 |
本研究は、フィリピンの現地調査に基づき、この地域のろう教育の形成史とフィリピンにおける独自のろう文化の全容を明らかにすることを目的としている。 今年度前半は、研究課題の考察に必要な理論構築を重点的に行った。フィリピンの言語観において、いかに西洋のろう文化概念が捉えなおされ、独自のフィリピンろう文化が形成されたのか、その歴史的背景と過程を明らかにすることを前提として、西洋におけるろう文化概念の発展史と障害の概念史の位置づけに関して論文を執筆し、その成果を国内の研究会および学会誌に発表した。 後半には、フィリピンならびに米国への研究調査出張を行い、デ・ラサール大学セントベニルデ校、フィリピン国立公文書館、聖フランシスコ・デフ・センター、ギャローデット大学、ワシントン国立公文書館等において、調査を行い、フィリピンにおけるろう教育史、アメリカの植民地期における福祉政策に関する文献渉猟ならびに、研究対象となるろう者団体へのインタビューを行った。現地フィリピンでのフィールドワークでは、フィリピンのろう者自身がろう文化概念をどのように捉えているか、さらにどのようなことが彼らの歴史として教えられているのか、またその中で手話をどのように位置づけているのか、その認識を明らかにすることができた。アメリカでの文献調査では、台風被害により現地フィリピンでは一部閲覧することができなかった、ろう者機関が発効した70年代以降の刊行物を入手することができた。これにより、ろう文化最盛期のフィリピンにおける文化形成史が明らかになった。 これら現地調査で得られた手話映像の分析、文献研究に基づいて、論文の執筆を進めている。次年度には学会誌への投稿を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
あらかじめフィールドを絞りインフォーマントとの関係を築くことができていたため、調査にスムーズに入ることができた。現地調査に関してはおおむね順調に進んだといえる。文献の収集に関しては、先行研究の数に限りもあり、当初は難航したが、アメリカでの資料収集により、十分な資料を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
フィリピンにおけるろう文化形成の独自性を明らかにするためには、①アメリカ植民地期におけるろう教育の歴史、②マルコス期におけるフィリピンろう文化と国民国家形成、③現存するろう者団体におけるフィリピンろう者のろう文化に対する認識、以上の三つに焦点を当てた調査が必要とされる。 ①に関しては、米国国立公文書館所蔵島嶼局資料(Bureau of Insular Affairs Regords: BIA Records, RG 350)を中心に分析しながら、フィリピンの植民地教育の文脈を踏襲しつつろう教育の特殊性を丁寧に読み解いていく予定である。②、③に関しては、引き続きフィールドワークを通して特に年代別にフィリピンのろう者に聞き取り調査を行う。オーラル・ヒストリーの手法を通して、文字として残されていないろう者の証言を記録することを通して、研究をすすめていく。
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