研究課題/領域番号 |
14J07115
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
有賀 裕剛 東京農業大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 耐塩性 / 環境ストレス耐性 / ナチュラルバリエーション / 遺伝学 |
研究実績の概要 |
我々のグループでは、世界中から集められたシロイヌナズナのaccessions間における耐塩性のナチュラルバリエーションを分子遺伝学的に解明することを目的に、350種のaccessionsについて耐塩性評価を行った。その結果、著しい耐塩性を示すaccessionsをいくつか発見し、これらの耐塩性accessionsは塩に馴化する能力(塩馴化能)を有し、強力な浸透圧ストレス耐性を獲得できることを明らかにした。本研究はこの塩馴化能を分子レベルで解明することを目的に遺伝学的解析を進めている。 これまでの研究から、塩馴化能の有無を司る遺伝子領域は第5染色体上の約67 kbpまで絞り込まれていた。シロイヌナズナについては約1000 accessionsについて塩基配列の情報が公開されているが、ゲノムシーケンサーによる塩基配列情報は、実験系統Col-0の塩基配列を基準として貼り付け作業を行うため、10 bpを超える「挿入」や「欠損」が他のaccessionsに存在する場合、それらを検出することが出来ないため、accession間に存在する全多型を検出することは不可能であった。そこで本年度は塩馴化型accession Bu-5のゲノムに由来するBACライブラリー(昨年度作出済み)のシークエンス解析を行い、前述の67kbpについて塩基配列を決定した。その結果、Col-0とBu-5とで塩基配列が大きく異なり、コードされる遺伝子の数も異なる(Col-0は4個、Bu-5は1個)領域が存在することが明らかとなった。Col-0の有する4遺伝子のうち、3つの遺伝子について欠損体を獲得し、塩馴化能を確認した。その結果、1遺伝子の欠損体が塩馴化能を示した。さらに、この遺伝子を導入したBu-5では塩馴化能が損なわれたことから、この遺伝子が塩馴化能を抑制する遺伝子であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は「塩馴化能を制御する遺伝子の同定」、「塩馴化能メカニズムの解明」、「塩馴化能に至るシグナル伝達経路の解明」という3本柱をたて、研究を進めている。「塩馴化能を制御する遺伝子の同定」は、メカニズムやシグナル伝達経路に関して研究を進める上でも、最も重要な項目であった。この遺伝子の同定に成功したことは今後の研究に大きな進展を与えてくれることが予想される。 また、塩馴化によって植物体内でどのような変化が生ずるか、という疑問を解明するため、塩馴化過程や塩馴化処理後の植物体を用いたトランスクリプトーム解析や、ホルモノーム解析を行った。その結果、塩馴化によって生じる変化を網羅的に捉えることに成功した。 「塩馴化能に至るシグナル伝達経路の解明」に関しては、塩馴化型accessionに突然変異を誘発し、塩馴化能を損なった変異体をスクリーニングするというアプローチで研究を進めてきた。本年度は約40000個体の植物のスクリーニングを進め、有力な塩馴化能欠損変異株を1個体獲得することができた。 以上のことから、本研究は順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により、塩馴化能を制御する遺伝子(原因遺伝子)を同定することに成功し、原因遺伝子を有する植物は塩馴化能が抑制されることが明らかとなった。原因遺伝子はその一次配列から、病原応答に関与するタンパク質をコードすることが予測された。植物における浸透圧ストレスなどの「環境ストレス応答」と、「病原応答」は拮抗関係にあることが報告されている。塩馴化能における浸透圧ストレス耐性の獲得、抑制についてもこの応答の拮抗関係により説明できるのかは非常に興味深い。シロイヌナズナはこれまでの膨大な研究により、様々な変異体が単離され、その機能解析が報告されている。そこで原因遺伝子との関連が予想される変異株などを取り寄せ、その塩馴化能を確かめることで、塩馴化能のメカニズムの解明を行う。具体的には病原応答を亢進することで、あるいは病原応答のシグナル伝達経路を抑止することで、塩馴化能にどのような影響が出るかを確かめていく。変異株を用いて得られた結果は本年度得られたオーム解析の結果と合わせて、塩馴化能メカニズムの解明を進めたい。 また、世界中に分布するaccessionsのうち、およそ100種類について塩馴化能の有無と原因遺伝子の遺伝子型を決定し、地理的分布やその進化について検証したい。 本年度得られた塩馴化能欠損変異株については、遺伝学的解析や次世代シークエンサーを用いた解析によりその原因遺伝子を同定し、塩馴化能の獲得に至るシグナル伝達経路を明らかにしたい。
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