Co-Cr-Mo合金は、主に人工股関節に使用されてきたが、近年では血管狭窄部の治療に用いられるステント用材料として期待が高まっている。ステント材として利用するためには複雑かつ細かな機械加工が必要となるが、一般にCo-Cr-Mo系合金は加工性に劣るため、この性質を改善する目的でNiが添加される。しかし、Niは生体毒性が指摘されているため体内への溶出抑制が不可欠である。医療用生体材料として近年開発されたCo-Cr-Mo合金は、表面処理の研究開発の歴史が浅く、その技術は発展途上の段階である。したがって、Niの溶出の抑制が可能な新たな表面処理法の開発が必要となっている。昨年度の研究において見出した中空陰極型グロー放電プラズマ表面処理を利用することにより、従来法である平行平板型陰極を使用した酸素グロー放電プラズマ処理と比較して、材料表面上の成膜形成速度が6倍程度改善した。この高効率なシステムを活かして、耐食性の優れる表面皮膜を作製するのが本年度の研究目的である。具体的には、生体安全性の観点から、不動態であるCr2O3のみを構成要素とする表面酸化皮膜の生成を目指す。本年度の研究では、陰極材を純 Cr に変更して実験を行った。 プラズマガスの違いにより、異なる特性を持つ表面酸化皮膜が形成することが明らかになった。特に、O2 ガスを用いた場合は、Cr 酸化物のみからなる皮膜を形成させることに成功した。また、Ar および Ne ガスとの相違点は、皮膜の成長速度である。O2 ガスを利用した場合では、成膜速度が大きくなることが判明した。このことから成膜に際して、O2 ガスを利用した場合では、イオン励起種による陰極スパッタリングに加え、プラズマ内で生成された酸素の励起種も表面皮膜形成における酸化反応に積極的に関与することが考えられる。
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