研究課題
光合成色素のクロロフィルが放出する蛍光は、光合成の状態を反映する。本研究課題は、このクロロフィル蛍光を利用し、原核光合成生物のシアノバクテリアの代謝系間の相互作用を明らかにすることを目的としている。しかし、シアノバクテリアにおけるクロロフィル蛍光測定の適用は、陸上植物よりも複雑である。代謝系の相互作用、殊に呼吸と光合成の相互作用のために、クロロフィル蛍光測定で見積もった光合成電子伝達速度が実際の状態を反映しない例も知られている。このような代謝系間相互作用に起因する問題に加え、シアノバクテリアでは、光化学系Ⅱの集光色素複合体であるフィコビリソームなどクロロフィル以外の色素が放出する蛍光により、光合成の状態が正確に評価できないという問題が知られていた。本研究課題を遂行するにあたり、このような問題は無視できないものであるため、平成27年度はクロロフィル蛍光測定においてクロロフィル以外の色素からの蛍光の影響の解析を中心に行った。その結果、クロロフィル蛍光測定シグナルの内フィコビリソームからの蛍光が占める割合を算出する方法の考案に至った。この手法により、陸上植物では広く利用されていたものの、シアノバクテリアでは従来困難であった、クロロフィル蛍光測定による光合成の正確な見積もりが可能になった。さらに、フィコビリソーム量が大きく減少する窒素欠乏環境下の光合成の状態をクロロフィル蛍光測定により評価することができた。これらの結果を論文にまとめ、Plant & Cell Physiology誌上で報告した。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度においては、本研究課題を遂行する上で重要な、シアノバクテリアにおけるクロロフィル以外の色素がクロロフィル蛍光測定に与える影響の解決策を考案し、論文発表に至った。
平成27年度中に、代謝系に直接的に関与する遺伝子のみならず、タンパク質翻訳に関連する遺伝子の破壊も、クロロフィル蛍光に影響を与えることを見出した。これは、特定の代謝系だけでなく、生体内のほとんど全ての生物活動に関わるタンパク質の翻訳の阻害が、代謝系の変動を通してクロロフィル蛍光、ひいては光合成に影響を与えることを示唆するものである。今後は、タンパク質翻訳関連遺伝子の破壊株の解析を進めていく方針である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
Plant & Cell Physiology
巻: 57 ページ: 558-567
10.1093/pcp/pcw010
Photosynthesis Research
巻: 126 ページ: 465-475
10.1007/s11120-015-0143-8