研究課題
急性型ATL(成人T細胞白血病)の治療抵抗性の原因の一つとして疑われているATL前駆細胞の同定や、新たな診断・検査法の確立を目指し、将来的にはATLに対するより良い治療法の開発につなげることを最終的な目標として、患者プライマリ細胞を用いて研究を行った。ATLは成熟リンパ系腫瘍に分類され、またメジャークローンから構成されるため、均一と考えられている末梢血の急性型ATL細胞であるが、マルチカラーフローサイトメトリーを用いた網羅的な細胞表面抗原解析の結果をもとに、急性型ATL(CD4+CADM1+)細胞集団の中にも性質の異なる分画(以下、S分画とする)が存在することを見いだした。また、In-Vitroモデル(シャーレの中での間葉系細胞との共培養系)を用いて評価を繰り返し、さらにはIn-Vivoモデル(免疫不全マウスへの患者プライマリATL細胞の移植系)を作り上げ、S分画の生存/増殖能を評価した。In-Vitroモデルにおいて、他分画のATL細胞が14日後にはほぼ全滅するにも関わらず、S分画の細胞は生存/増殖を示し、元患者の末梢血の多数を占めた他分画のATL細胞を作り出すことが確認された。In-Vivoモデルにおいても、S分画の細胞を移植することで、末梢血に多数のATL細胞の出現や肝脾腫をきたし、患者プライマリ細胞を用いてレシピエントマウス内に急性型ATLの病態を再現することに成功した。また、末梢血、肝臓、脾臓等においても、他分画のATL細胞が認められ、S分画の細胞がIn-Vivoモデルにおいてより多くの他分画のATL細胞を作り出すことが確認された。ATL細胞の増殖の場は脾臓やリンパ節と思われており、ATL前駆細胞が患者末梢血に存在するかどうかは不明であったが、ATL前駆細胞あるいはそれに類する能力を持った細胞が、末梢血にも存在する事が明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
患者プライマリ細胞を用いた研究は困難であるが、すでに当研究所で確立したATL細胞分画法(HAS-Flow法)を用いてATL細胞のみを対象とし、細胞表面抗原解析でのスクリーニングから候補抗原を絞り込み、In-Vitroモデルで確認実験を繰り返し、性質の異なるATL細胞分画を同定した。また、一般に、ATL細胞は免疫不全マウスであっても生着が見られないが、レシピエントマウスや移植細胞数・移植方法等の条件検討や試行錯誤の上で、ソーティングにて純化したATL細胞の免疫不全マウスへの移植を用いたIn-Vivoモデルを確立し、ATL細胞自体の増殖をマウスの中で再現することに成功した。また、ATLは九州に多く関東に少ない稀少疾患であり、研究の進行が患者サンプル数や細胞数に大きく左右される点に関しても、患者プライマリ細胞より確立した細胞を用いた実験モデルを別途新たに確立し、いくつかの新知見を得てきている。以上の理由から、本年度の研究は当初の計画以上に進展したと考えられる。
当研究の根幹となる研究成果は順調に出てきているが、研究の進展ともに、下山分類で同じ「急性型」と診断される症例間でも多少の違いがあることが分かってきた。これはHTLV-1感染から50-60年もたってから発症することが原因と考えられるが、この点に関しては、臨床経過等を考慮して症例を分類することで対応したいと考えている。また、患者プライマリ細胞を用いることによる再現性の確認も複数例にて終えているが、今後(次年度)は、今回同定した分画の細胞の性質を様々な研究手法を用いてより詳細に評価する予定である。加えて、臨床経過や化学療法抵抗性との関連も検討をしながら、基礎的知見と臨床的知見を結びつけ、マウス内だけでなく実際の患者におけるATL細胞の動態や増殖・再発の機序をより細かく解明し、将来的には新しい治療法の開発につなげられるように、研究を進めて行きたいと考えている。
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