研究課題/領域番号 |
14J07365
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西村 拓也 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 3点関数 / SU(2)セクター / モノドロミー条件 |
研究実績の概要 |
AdS/CFT対応の包括的な理解へ向けて、研究計画一年目は主にSU(2)セクターと呼ばれる理論のスペクトルを特別な部分空間へ制限した場合における3点関数の解析を行う予定であった。当初の予定では、3つの状態のもつ量子数が非常に大きい半古典近似の枠内で普遍的な構造を抽出することを目的としていたが、今回、弱結合領域において3点関数を構成するための全く新しい手法を開発した。従来の手法では3点関数の計算は、Bethe状態と呼ばれるスピン鎖模型の状態間の内積を用いて評価されていたが、この手法では解析が簡単化するのは非常に特殊なクラスに限られ、その本質は捉えられていなかった。しかし新しい手法では、場の理論の摂動計算におけるWick縮約をスピン鎖模型の立場から正しく捉え直すことにより、従来よりも広いクラスの3点関数を構成することに成功した。その結果、SU(2)セクターに置ける3点関数の基本的構成要素は、Bethe状態間の内積ではなく、スピン鎖模型におけるある種の分配関数であることが分かった。この物理量の評価は、以前我々が開発した公式が適用可能であり、半古典極限も体系的に評価できる。
さらにモノドロミー条件とよばれる強結合領域の半古典的3点関数の計算において、重要な役割を果たした関係式を弱結合領域におけるSU(2)セクターでも同様に導出した。この関係式は理論の可解性、すなわち十分な数の保存量の存在を強く反映しており、場の理論におけるある種のWard恒等式のようなものだと解釈することができる。一方でこの関係式は互いに異なる3点関数同士を関係づけるためにSchwinger-Dyson方程式とも捉えることができ、この関係式は3点関数の決定に大きな役割を果たすことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では弱結合領域におけるSU(2)セクターの半古典極限の解析により、3点関数についての普遍的な構造を抽出し、理論全体への理解への一歩とする予定であった。半古典極限の解析はまだ完全には終了していないが、その基本となるモノドロミー関係式を導出することに成功した。この関係式は強結合領域において3点関数の決定に非常に重要な役割を果たしたため、大きな進展と言える。 さらにモノドロミー関係式を導く際に3点関数の新しい計算手法を提案し、従来より広いクラスの3点関数の計算が可能となった。 またモノドロミー関係式の理論全体への拡張も導出できたため、完全に予定通りではないが、研究計画は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
まずは導出したモノドロミー関係式に基づき、SU(2)セクターにおける3点関数の半古典極限の解析を完了することを目指す。これにより、弦理論側での計算と比較することができ、類似の構造を見いだすことが出来ると期待される。またモノドロミー関係式は弱結合、強結合、両サイドにおいて導出されており、3点関数に対して強い制限を与えた。そのためこの関係式が3点関数についてどれだけ強い制限を与えているかを理解するために、相関関数の構造が対称性だけから完全に決定されることが知られているモデルを用いて、モノドロミー関係式がどのような役割を果たすかを解析していく。
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