研究課題/領域番号 |
14J07381
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
草間 知枝 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 形状記憶合金 / 異常粒成長 / Cu-Al-Mn / 超弾性疲労特性 / マルテンサイトバリアント |
研究実績の概要 |
粗大結晶粒組織を有するCu-Al-Mn合金の超弾性挙動に及ぼす結晶粒界の影響を調査するため、相変態を利用した連続的異常粒成長現象を用いて結晶粒粗大化した引張試験片を作製し、繰り返し超弾性変形試験を実施した。その結果、結晶粒径がより大きく粒界面積の少ない試料ほど優れた超弾性疲労特性を示し、変形回数が100回を超える繰り返し超弾性変形において結晶粒粗大化により粒間拘束を大きく低減し高い超弾性歪み量を維持できることを明らかにした。特に平均結晶粒径が試料厚さおよび幅を超えるバンブー状組織を有する試料では、実用Ni-Ti合金に匹敵する優れた超弾性疲労特性を発現することを見出し、本合金がNi-Ti合金の代替材料として利用できる可能性が高まった。その他、マルテンサイトバリアントのトレース解析により、シュミット因子の大きさが最大のバリアントはすべての結晶粒内で誘起している一方で、2番目以下のバリアントは大角粒界近傍でのみ誘起していることが確認され、粒間拘束により強い局所応力が発生していることも明らかとなった。超弾性疲労特性と結晶粒径および結晶粒界の関係に関するこれらの知見は、優れた超弾性特性を発現する理想的な材料組織を作り出すための制御指針を与えるものであり、粗大粒Cu-Al-Mn合金の超弾性部材として実用化するためには必要不可欠な情報である。 以上の研究成果については国内外の学会において4回の発表を行っており、現在学術誌への投稿を計画中である。 また、相変態を利用した異常粒成長現象を用いて粗大結晶粒を効率的に作製する熱処理条件を確立するため、異常粒成長の主な駆動力と考えられる亜結晶粒界エネルギーの総量を増大する目的で、亜結晶粒径の微細化を試み、析出相(α相)の析出形態を制御することで亜結晶粒径の微細化が可能であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度計画した調査の一点目である超弾性疲労特性に関する研究については概ね順調に成果を得ることができた。 計画の二点目である相変態を利用した異常粒成長のメカニズム解明に関しては、冷却に伴う第二相の析出および成長の過程で亜結晶粒組織が形成される要因を明らかにするため、in-situ XRDを用いて冷却中のマトリックスおよび析出相の格子定数を測定しモル体積の変化量を導出したが、いずれも温度による変化は小さくそれだけでは現象の説明としては不十分であるため、今後さらに調査を行う。TEMによる転位の観察については、析出初期であっても析出物サイズがTEMの観察視野に対し大きく亜結晶粒界もその周囲にまばらに存在しているため適切な観察領域を切り出すことが困難であるが、FIBを活用して徐々に適切なサンプル作製が可能になりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
相変態を利用した異常粒成長現象を理解するため、組織観察結果を元に異常粒成長速度を実験的に導出する。また、これまで異常粒成長速度を計算から求めるために用いてきた亜結晶粒界の方位差は一般的な2°の値を代入していたが、より精度良く導出するために実際にEBSDによる結晶方位解析で得られた結果を用い、実験値との比較を行う。 また、これまでの実験からin-situ EBSD法による亜結晶粒組織形成過程の直接観察は困難であると考えられるため、今後は第二相析出初期の試料のXRD解析およびTEM、EBSDによる組織観察と結晶方位解析を重点的に行う。マトリックスと析出相の結晶構造や結晶方位関係および格子ミスフィット量に注目し、相変態に伴う局所的な体積変化や析出物とマトリックスとの弾性異方性が及ぼす影響もPhase Field法を用いて検討し、析出物周囲の局所応力の増大と転位の導入について考察を行う。同様の異常粒成長現象が確認された他の合金系についても同様の調査を行い、亜結晶粒組織が形成されるための条件を見出す。 さらに、本異常粒成長現象を利用した結晶粒粗大化手法の確立に向け、まずは異常粒成長速度の加速を目的として亜結晶粒径微細化による粒成長駆動力の増加を試みる。またその組織観察により異常粒成長の駆動力および異常粒成長速度を導出し、実験値との比較を行う。
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