研究課題/領域番号 |
14J07397
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
苗村 伸夫 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 最適化 / 近似モデル / 応答曲面法 / トポロジー最適化 / 数値流体力学 / 空気力学 / ボルテックス・ジェネレータ |
研究実績の概要 |
最適化の低コスト化に用いられる近似モデルの新手法開発と乱気流による航空機の振動抑制に用いられるボルテックス・ジェネレータ(VG)の設計最適化を実施した。 近似モデルの新手法開発では、目的関数と相関の強い特徴的な座標系を見つけ出す方法を二種類提案し、問題に応じて使い分けることで、多種多様な最適化問題に対応可能な手法に仕上がった。提案手法と従来手法を、テスト関数および翼型の揚抗比最大化問題に適用し、近似精度と最適化能力を比較した。変数間依存性をもったテスト関数に適用した場合には、提案手法は適切な座標系を見つけ出して関数全体を精度良く近似することができ、従来手法に比べて最適化が終了するまでに要する計算コストを低減することができた。翼型の設計最適化問題では、変数間依存性をもつ設計変数として翼型の翼厚分布とキャンバーラインを定義するスプライン曲線の制御点を用いた。提案手法は、目的関数の揚抗比の近似精度と最適解の探索能力のいずれにおいても、既存手法よりも優れた性能を発揮した。これにより、提案手法は変数間依存性をもつ実設計問題に対しても有効であることが示された。 VGの設計最適化では、周期境界条件を適用した無限後退翼を用いてVGの高さ、長さ、角度という三つの設計パラメータを変数とし、空気抵抗を最小化しつつ効率的に失速緩和できるVG形状を探索した。最適化には、近似モデルとして上述の提案手法を採用した。最適化の結果、経験側に基づいて設計したVGよりも、巡航時の空気抵抗が小さく、失速緩和性能にも優れた設計案を獲得した。さらに、多目的最適化の結果から、設計で重要となるパラメータを特定することができ、経験則に基づく従来形状とは異なる革新的なVG形状を提案することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近似モデルの新手法開発では、提案手法によって実設計問題においても効率良く最適化を達成することができ、実用的なツールとして活用できる段階となった。研究成果を国内外の学会で発表したところ高い評価を受けて、国内学会では受賞した。提案手法を、ボルテックス・ジェネレータ(VG)の設計最適化問題に適用したところ、従来手法よりも高い近似精度が確認され、既存の設計案よりも優れた斬新な設計案を提案できたことからも、革新的な空力デバイスを作り出すにあたって有効なツールであると考える。VGの設計最適化に関する成果は、本年度中に国内外の学会で受理され、次年度に発表する予定である。 また、翼型の設計最適化問題においても、提案した近似モデルによる大幅な最適化能力の向上を確認した。この設計問題ではスプライン曲線により形状を定義したが、より高自由度な形状定義方法にFree Form Deformation(FFD)と呼ばれる方法があり、こちらを用いる場合にも提案手法は有効に作用すると考えられる。FFDと提案した近似モデルの組み合わせにより、高自由度な設計空間内を多数の目的関数を考慮しながら探索できるため、当初予定したトポロジー最適化よりも効率的に大域的最適解を獲得できると見込まれる。このことから、近似モデルの開発は当初の計画以上に進展していると言える。 トポロジー最適化では、目的関数に対する設計変数の感度を算出する際に必要となるadjoint方程式を流体ソルバーに実装し、adjoint方程式の各項が適切に評価されていることを確認したが、予定以上の時間を要した。また、上述のFFDと提案した近似モデルの組み合わせによって、より効率的な最適化が可能との見込みが立ったため、研究を一本化し、近似モデルのさらなる改良によって多様な形態を考慮可能な最適化手法の実現を目指すこととした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究課題は、ボルテックス・ジェネレータ(VG)の設計最適化と近似モデルを用いた最適化手法の高度化に分けられる。 まず、VGの設計最適化に関して、実際の航空機のように翼胴干渉やキンク、翼端をもった三次元後退翼上での、VGによる衝撃失速の緩和現象は非常に複雑であるため、設計最適化問題を二段階に分解する。第一段階では、周期境界条件を適用した無限後退翼を用いてVGの高さ、長さ、角度という三つの設計パラメータのみを考慮し、空気抵抗を最小化しつつ効率的に失速緩和できるVG形状を探索し、第二段階では、第一段階で最適化したVG形状を用いて、三次元後退翼上でVGの配置の最適化を行う。第一段階は本年度中に達成したので、次年度は第二段階に取り組み、実際の航空機に設置が可能な状態まで研究を発展させる。 VG設計最適化の第二段階を実行するにあたって、近似モデルを用いた最適化に関して二つの課題があり、手法の高度化が必要となる。一つ目の課題として、現在は近似モデル生成の際の座標系を全設計空間で共通に選択しているが、設計最適化の第一段階で、これに起因する精度低下が確認された。この問題に対応するため、設計空間を分割し、異なる特徴を持った設計空間では異なる座標系を使用できるように改良を加え、更なる近似精度向上を目指す。 二つ目は、近似モデル生成に用いる追加サンプル点の選択方法である。現行の方法は、単目的最適化で使用されてきた方法を拡張したものであり、多目的最適化では十分な性能を発揮できていない。そこで、多目的最適化に特化した方法として、取得すべきサンプル点の目的関数の目標値を複数設定し、それらに向かって効率良く多数の最適解を得られる手法を提案する。 これらの最適化手法の高度化により、トポロジー最適化よりも効率的に高自由度の設計最適化を達成することを目指す。
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