研究課題/領域番号 |
14J07420
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研究機関 | 大谷大学 |
研究代表者 |
須藤 孝也 大谷大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | キルケゴール / 啓蒙 / デンマーク / 歴史学 / 歴史哲学 / 19世紀 |
研究実績の概要 |
1、キルケゴールとH.N.クラウセンの比較を行った。両者の思想の異同は以下の点にある。思弁神学に対する批判、聖書主義、歴史的知識は真理の近似値にとどまるという見方、人間性を高めるキリスト教、といった点に類似性が認められる。他方、キリスト教の理解可能性について、歴史学的研究が果たす役割について、宗教と政治の関係については差異が認められた。これに関する研究成果については、二度、学会で報告した。 2、グルントヴィを中心にデンマーク啓蒙の歴史を研究した。キルケゴールとほぼ同時代人であるため、グルントヴィの思想を参照することは、19世紀のデンマークの思想状況を知るために非常に有効であった。というのも、グルントヴィは、「啓蒙」の価値や意義を認めながらも、「北欧主義」ないし「生けるキリスト教」の観点から批判も加えていたからである。キルケゴールの時代、啓蒙を批判しながら受容することは「常識」であったと考えられる。 3、キルケゴールの歴史理解について考察した。カトリシズムからプロテスタンティズムに至る変化、プロテスタンティズムの歴史的変容、民主化について、キルケゴールはどのような理解をしていたのかを明らかにした。キルケゴールの歴史観の特徴は、真理の啓示としてのイエス・キリストと、19世紀においてそれに関わるキルケゴールという二つの点を両極とし、それらの二つの点に至るまでの歴史的発展が想定されているところにある。これに関する研究成果については、宗教哲学会で報告した。 4、マーク・C・テイラーの『神の後に』に示されたキルケゴール理解を検討した。テイラーの本書の翻訳を行い、ぷねうま舎から出版するとともに、特にそのキルケゴール理解に着目し、論文「キルケゴールとマーク・C・テイラー」にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クラウセンのキリスト教理解がシュライアーマッハーから受けている強い影響について理解することができた。また、クラウセンを経由してキルケゴールもまた、シュライアーマッハー研究に取り組んだプロセスを追うことで、キルケゴールとクラウセンの関係を把握することができた。 また、単に啓蒙主義だけに着目することの限界に気づくこともできた。というのも、ロマン主義を媒介した啓蒙主義の受容という可能性もありえ、またこの可能性が非常に有力なものであるという見通しも得られた。 今年度は、デンマーク思想史に関して一定程度理解を深めることができたのも有益であった。北欧思想の特徴の一つに、地域主義があるという認識を得ることができた。そうした点が、キルケゴールの啓蒙批判や啓蒙受容に大きな影響を与えているという着想は、今後、研究を進める上で非常に大きな収穫であった。
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今後の研究の推進方策 |
資料採集の面で困難があったが、それは平成27年度の在外研究によって解消することができる。 デンマークのキルケゴール研究センターに滞在して研究することに関し、センターから許可を得ることができた。また、デンマークにおける啓蒙の歴史に関しては、デンマーク人研究者と意見交換をすることによって、大幅な進展が見込まれる。これに関する基礎研究は平成26年度に済ませることができたため、スムーズに研究を深化させることができる。
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