植物体の光合成産物のシンク活性に対して、光合成器官である葉のソース活性が過剰なとき、葉に非構造性炭水化物 (TNC、デンプンや可溶性糖) が蓄積すると、光合成速度が低下する現象は、光合成ダウンレギュレーションとして知られている。しかし、その詳細なメカニズムや種間差、生態学的意義については不明な点が多かった。本研究ではこれらの問題を解決するために、以下の実験を行った。 アブラナ科植物5種、マメ科植物3種を用いた環境操作実験を行い、TNCが光合成速度に与える影響を評価した。その結果、TNCの蓄積による光合成速度の低下は、マメ科植物のインゲンのみにおいてしか見られなかった。 ダイズとインゲンを用いた詳細な比較実験から、シンク・ソース比の減少に応じて、葉にTNCだけでなく、細胞壁などの構造性炭水化物も蓄積することが分かった。そこで、細胞壁量の増加が細胞壁厚さによるものであれば、葉内から葉肉細胞内へのCO2透過性(葉肉コンダクタンス)も減少していると仮説を立て、炭素安定同位体方による葉肉コンダクタンスの測定と、透過型電子顕微鏡による細胞壁厚さの解析を行った。その結果、両種において、シンク・ソース比の減少に応じて細胞壁厚さが3倍近く増加していた。さらに、葉肉コンダクタンスと細胞壁量・厚さの間には明確な負の相関がみられた。 これらの結果から、シンク・ソース比の減少に応じた光合成ダウンレギュレーションにおいては、ルビスコなどの光合成タンパク質の減少による生理学的な調節だけでなく、細胞壁厚さの増加による形態的な調節も行われていることが示された。
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