研究課題/領域番号 |
14J07501
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
須藤 まりな 東京藝術大学, 音楽研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | セリー技法 / 音楽素材 / 現代音楽 |
研究実績の概要 |
《プリ・スロン・プリ》の創作プロセスの全貌解明に向けて一次資料の分析作業を進めている。これまでに、パウル・ザッハー財団が所蔵する5つの構成楽曲に関する創作スケッチおよび草稿譜等の資料収集を大方終え、当作品のいわば総括として位置づけられる第1曲〈賜 Don〉の資料の解析を行った。その結果、第1曲とほぼ同時期に構想が練られた第5曲〈墓 Tombeau〉とのあいだに形成された素材使用上のシンメトリー関係の詳細と、それによって支えられる《プリ・スロン・プリ》サイクルの一貫した創作コンセプトが明らかになった。その成果の一部は、ザッハー財団が発行する機関誌掲載の小論文にまとめた。 一時資料の分析を進める中で、今後取り組んでいくべき新たな課題も浮かびあがった。ブーレーズの音楽創作は、セリー素材の準備からその活用方法の探求、そしてそれらの構想の細部が実際に譜面化されるに至るまで、入念かつ精巧に練られた段階的な作曲計画に支えられている。着目すべき点は、準備された素材が譜面化される際、きわめて柔軟に多様なヴァリエーションを伴って現実化されていることである。つまり、元の音素材と現実の音対象の間には大きな隔たりがあり、ゆえに、セリー素材の論理的構成によって築き上げられた作品内部のシステムはあくまでも作品創作上のコンセプトとしてのみ存在し、最終的なスコアの段階においてそれが表面上に現れることは決してない。この点に鑑み、現在、以下の問題提起に至っている。ひとつは、柔軟な素材として設計されたブーレーズのセリーはいかなる特性を持ち、それに対してどのような派生の可能性が与えられているのか。次に、スケッチにおいて準備されたセリー素材が現実化される際、創作上のいかなる判断基準が働いていると考えらるか。これらは、彼の作曲におけるシステムと自由な書法の関係性を考察する上で無視することのできない問いであると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までに、本研究の基盤となるパウル・ザッハー財団での一次資料の包括的な調査をほぼ終え、その複雑なスケッチの解読作業および作曲過程の解明を進めている。その中で、ブーレーズの音楽創作における段階的な音楽構築のプロセスと、そこに内在する論理が徐々に明らかになってきた。現在、本研究の核となる論点の整理を行っている。この点に関については、ほぼ順調に研究を進めているといえるが、具体的な学術成果としての論文発表は現段階ではそれほど多くない。(3)の「やや遅れている」を選択したのは、以上の理由による。ただし、国際ジャーナルへの投稿を予定して、現在、第1曲〈賜〉に関する英語論文の執筆を行っており、この他にも今年度中に上記の成果をまとめた査読論文を複数発表をすることを予定している。
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今後の研究の推進方策 |
現在、《プリ・スロン・プリ》の第1曲〈賜〉の創作過程の解明を基盤としてブーレーズの素材の取り扱いに関する考察をまとめた英語論文を執筆中で、6月までにはこれを完成させる予定である。また、今夏を目処に、昨年度までに収集した一次資料のうち、とりわけ〈賜〉との関係が深い第5曲〈墓〉のスケッチの解読を丹念に進め、素材の柔軟な現実化に際してブーレーズがいかなる創作上の探求を行っているのか、その手がかりを得たい。得られた成果は、今年度中に査読論文としてまとめる。また、第3曲〈マラルメにより即興第3番〉の解読も進め、その中で同時期のダルムシュタットでの講義に基づく著作『現代音楽を考える』とのあいだの理論と実践の関係に注目する。 これらの作業と平行して、博士論文の章立ての検討、一部執筆も始める。そこでの重要な論点を絞っていくためには、1950年代のブーレーズの他の作品への理解が不可欠である。これは《プリ・スロン・プリ》の完全版(1962)が、1940年代後半から50年代を通して作曲者が試みた様々な作曲語法の探求のいわば総括として位置づけられるためである。《プリ・スロン・プリ》以前の主要作品、とりわけ《主なき槌》(1952-55)、《第3ソナタ》(1956-57)、《構造2》(1961)における実験的試みとの比較も進めながら、主にセリー素材の取り扱いの観点からこれらの作品における技法の分析・考察を先行研究を拠り所にしつつ行う。その中で、本研究と関係の深いトピックの洗い出しを進めていく。 今月9月には、再びパウル・ザッハー財団にて、本研究で使用するスケッチの詳細の確認、およびブーレーズの書簡の調査も行う。後者の作業は、複雑な《プリ・スロン・プリ》の作曲・改稿経緯の詳細を明らかにすると同時に、同時作曲者が取り組んでいた理論的、美学的思考の一端を探ることを目的としている。
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