研究課題/領域番号 |
14J07507
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
藤 泰子 国立遺伝学研究所, 総合遺伝研究系, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / DNAメチル化 / DNA傷害 / 転写 |
研究実績の概要 |
真核生物の遺伝子発現やゲノム制御には、DNAメチル化によるエピジェネティックな調節が重要な役割を果たしている。遺伝子プロモーター領域やトランスポゾンにおけるDNAメチル化は、転写抑制やゲノムの安定化に寄与する。近年、DNAメチル化は、転写活性の高い恒常発現遺伝子の転写領域においても、高度に蓄積することが明らかとなっている。遺伝子の転写領域におけるDNAメチル化は、多くの真核生物に共通しており、その機能の重要性が示唆されるが、その機能は未だ解明されていない。本研究では、シロイヌナズナを用いて転写活性化遺伝子の転写領域におけるDNAメチル化の機能とその制御機構の解明を目的としている。 これまでの研究成果から、遺伝子転写領域におけるDNAメチル化が、「恒常発現遺伝子におけるDNA傷害を抑制する」役割をもつ可能性が強く示唆された。これを立証するには、DNAメチル化酵素MET1変異体でDNA傷害が多発する直接的証拠が不可欠である。また、細胞周期やDNA傷害との関連性をより詳細に調べ、その作用機序について理解を深める必要がある。本年度は、DNA傷害発生量を調べるコメットアッセイ法やTUNELアッセイ法、細胞周期との関連性を調べるフローサイトメトリー解析の実験系を立ち上げた。予備的実験から、met1変異体において細胞周期遅延が起きていることが示唆された。 また、本研究では、転写活性化遺伝子の転写領域におけるDNAメチル化の制御機構を明らかにするため、遺伝子転写領域のDNAメチル化を特異的に消失する変異体の探索を行っている。これまでに、トランスポゾンなどと比較して、より遺伝子転写領域において強くメチル化を消失するMET1変異体バリアントの同定に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、DNA傷害発生量を調べるコメットアッセイ法やTUNELアッセイ法や、細胞周期との関連性を調べるフローサイトメトリー解析の実験系を立ち上げ、本解析をする準備が整っている。また予備的実験から、met1変異体では、G1期から複製初期において細胞周期遅延が起きることが示唆された。このことは、本研究の仮説である「恒常発現遺伝子におけるDNA傷害を抑制する」ことを支持する。また遺伝子転写領域のDNAメチル化を特異的に消失する変異体の探索では、遺伝子転写領域に傾倒して強くメチル化を消失するMET1変異体バリアントの同定に成功している。従って、計画以上に研究が進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、DNA傷害が発生した領域DNA断片に特異的に結合するH2A.Xの特異抗体を用いて免疫染色を行い、met1変異体とDNA傷害修復因子との二重変異体、および野生型植物体におけるH2A.Xの細胞内蓄積量を比較する。得られた結果が良好な場合は、同抗体を使用して全ゲノムクロマチン免疫沈降シークエンス(ChIP-seq解析)を行い、これら植物体におけるH2A.Xの局在領域を比較解析する。 また、上記の変異体探索により得られたMET1変異体バリアントでは、遺伝子転写領域のメチル化がより特異的に消失する。このことは、変異箇所を含むタンパク質ドメインがMET1タンパク質の標的特異性を決定している可能性を示唆する。従って、変異箇所を含むタンパク質ドメインの欠損株を作成し、DNAメチル化に対する影響を調べる。
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