本年度は、昨年度に引き続き、賀茂真淵や上田秋成、またその周辺の和学者たちの自筆資料や筆写本、奥書資料、書入資料などを調査し、近世中後期における和学者たちの活動を把握することに努めるとともに、特に真淵と秋成を中心として、学問的著作や小説作品を分析し、その位置付けや解釈に新たな知見を加えることに取り組んできた。 調査に赴いた所蔵機関は、上田市立上田図書館(長野県)、京都大学文学研究科図書館(京都府)、朝日町歴史博物館(三重県)、嵐牛蔵美術館、賀茂真淵記念館(以上、静岡県)、石川武美記念図書館、大東急記念文庫(以上、東京都)、名古屋市鶴舞図書館、刈谷市立中央図書館(以上、愛知県)などである。また、受入研究機関の東京大学国文学研究室や東京大学総合図書館でも資料調査を重ねてきた。これらの調査によって、これまで知られなかった賀茂真淵説書入本や遠州の石川依平・内山真龍といった和学者たちの新資料を見出すことができたほか、京都の歌人小沢蘆庵とその門人たちの歌会資料、名古屋の和学者大館高門が京都に滞在していた時期の書簡、上田秋成の自筆資料や写本などを精査することができ、当初計画していた和学者たちの学説継承・知的交流の様相を分析する基盤が整ってきた。 さらに上記の調査を踏まえ、秋成晩年の著作『春雨物語』の一編「目ひとつの神」で展開される歌論について分析した「『春雨物語』「目ひとつの神」の和歌史観」、70点以上が現存する賀茂真淵説書入『金槐和歌集』が広く享受された理由と、真淵による実朝評の推敲過程およびその意義を探った「賀茂真淵の実朝研究」、秋成門人の和学者・狂歌師林鮒主の伝記を綴った「林鮒主年譜稿 ―享和から天保まで―」という3点の論文を発表できたことも本年度の大きな成果であった。
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