研究課題
・慢性的なビタミンC不足が老化関連疾患の発症に及ぼす影響について調べるため、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息(BA)および近年臨床面で注目されつつある両疾患のオーバーラップ症候群(ACOS)の患者を対象にした臨床試験を行った。対照群として医療法人社団同友会春日クリニックの協力を得て人間ドックを受診した60歳以上の方を対象に試験への協力依頼書に同意してもらいサンプルを回収した。東京都老人総合研究所、順天堂大学および東邦大学の呼吸器内科、さらにカゴメ株式会社とともに参加し、実験デザイン、サンプルの回収、ビタミンC測定、データの統合と統計解析、論文の執筆を担当した。患者の分類に関してはGOLD、GINAガイドラインにそれぞれ従いCODP(N=39)、BA(N=15)、およびACOS(N=21)郡に振り分けた。対照群(N=30)に関しては、肺疾患の病歴を持たず、喫煙習慣のないサンプルを抽出した。試験前日夜からのビタミンC摂取を禁止し、さらに基準値以上のビタミンCが尿中から検出されたサンプルは除外した。測定解析の結果、COPD群の血中ビタミンC濃度は健常者群に対して有意に低値を示した。レドックスバランス破綻の指標となる総ビタミンCに対する酸化型のビタミンCの割合は健常者群に対して疾患群で高い値を示した。一方、BA群およびACOS群においては、ともに健常者群と有意な差は認められたかった。カロテノイド類の測定結果においては、リコピンが唯一COPD群で健常者群と比べ有意に低値を示したが、ルテイン、ゼアキサンチン、β-クリプとキサンチン、β-カロテン、α-カロテン、およびレチノール、α-トコフェロールについてはいずれにおいても疾患群と健常者群に有意な差は認められなかった。酸化ストレスの指標であるGSHの値においては、COPD群が健常者群に対し有意に低値を示したが、一方でGSH/GSSG比及び尿中の8-OHdGの値には疾患群と健常者群の間で有意な差は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
これまでの結果から、COPDは喫煙等によって引き起こされる慢性的な炎症から肺組織を守る、ビタミンCやリコピンといった抗酸化物質の欠乏によって引き起こされる、またはその病体が進行する可能性があることが示唆された。一方で、BAおよびACOSの病体発症やその進行に関しては、抗酸化栄養素の欠乏とは別の原因である可能性があることも同時に示唆された。これまで、日本人における肺疾患患者を対象に体内の抗酸化栄養素の過不足を調べた研究は乏しく、さらに検体の平均年齢がすべての群において55歳以上と高齢者を対象にした今回の研究結果は、肺疾患患者の予測や治療方法の選択に多いに役立つものと考えられる。以上の研究報告は論文作成まで済み、現在The American Journal of Clinical Nutritionに投稿中である。また、第26回日本呼吸器学会で共著研究者としてポスター発表を行った。
慢性的なビタミンC不足が老化関連疾患の発症に及ぼす影響について調べるプロジェクトとしてあげた、骨粗鬆症およびサルコペニア発症に対するビタミンCの影響について解析を進める。所属グループが独自に開発したビタミンCを合成できないSMP30/GNL KOマウスを用いて、ビタミンC摂取不足の状態を作成し、一方で高齢期からの積極的なビタミンCの摂取によって、老化に伴い発症するこれらの疾患を予防できるか検討する。これらは(株)ニチレイフーズとの共同研究により行い、骨粗鬆症に関するプロジェクトでは、骨芽細胞の活性を血中のアルカリホスファターゼ活性で定量し、骨密度測定および骨芽細胞、破骨細胞を用いた代謝活性とコラーゲンの遺伝子発現を比較する。一方でサルコペニアに関するプロジェクトにおいては、足底筋、ヒラメ筋、腓腹筋をそれぞれアATPase染色し、遅筋タイプから速筋タイプへの加齢に伴う筋繊維タイプの移行にビタミンCが関与するか検討する。
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ビタミン
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