研究実績の概要 |
エピゲノム制御の一翼を担うヒストン脱メチル化酵素遺伝子群の中で、内部細胞塊から配偶子形成に至る生殖細胞の分化過程において特徴的な発現変動を示すものとして、H3K9脱メチル化酵素遺伝子Jmjd1Cに着目し、βgeo gene-trap(GT) ES細胞からのJmjd1C GTマウスを解析した。その結果GTホモ型マウスは精子形成不全を示し、そのGT変異精巣では円形精子細胞からの精子完成期に顕著な組織学的異常が見られた。さらに、類似の変異表現型は同族遺伝子のJmjd1Aについても既に報告されH3K9脱メチル化作用が精子核リモデリング遺伝子の発現促進に寄与することが示されていた(Okada et al, Nature, 2007)。以上の知見に基づいて、本研究はこのJmjd1C欠損に見られる異常を解析することによって、クロマチン制御因子JMJD1Cの機能及びその機能関連因子や標的遺伝子を解明し、精子幹細胞および精子核リモデリングに関わるエピゲノム制御ネットワークを究明することを目的とする。 近年、Jmjd1C強制発現細胞の解析によってJMJD1C蛋白にはH3K9脱メチル酵素活性が見られないことが報告され(Brauche et al, PlosOne, 2013)、JMJD1C機能にはヒストン以外の標的因子が存在する可能性が浮上してきた。よって、本年度はこの観点からの解析を加え、より詳細なJmjd1C-GT変異型の異常要因を探る作業を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果からマウス精巣におけるJMJD1Cの脱メチル化標的もしくは連携因子候補と予測されたMDC1, RNF8, HSP90αには興味深い共通項がある。これら三者はJmjd1Cとともに殆どの組織で普遍的な発現性を示すにもかかわらず、そのノックアウトはいずれも精子形成のみに異常に示す点である。特にRNF8については、RNF8によるヒストンH2A/H2Bをユビキチン化に続くヒストンH4K16のアセチル化、ヌクレオソームからのヒストン除去、除去領域へのプロタミン補充というヒストン-プロタミン置換カスケードの上流に位置することが明らかにされている。加えてRNF8は三者の中でもノックアウトの表現型が我々のGTホモ型に酷似しているため、精子完成期の分子ネットワークの中でJmjd1Cと密接に関わっていることが予測される。 以上の考察から、今後はH4K16のアセチル化およびヒストンアセチル化酵素についてJmjd1C変異による発現・局在等の変化やJMJD1Cとの結合性の有無を検証する予定である。
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