研究課題/領域番号 |
14J07587
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
鈴木 邦道 慶應義塾大学, 医学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 補体 / シナプス除去 / AMPA受容体 / Cerebellin / C1q |
研究実績の概要 |
<補体によるシナプス除去現象の時空間制御メカニズム解明> 補体C1qおよびC3のノックアウトマウス(以下補体KOマウス)を用いて、免疫組織・細胞化学的および生化学的な検討により、発達と脳内における発現の時空間的な解析する実験系を構築された。免疫組織化学的な検討により、C1q脳全体に特徴的な分布を示し、特に海馬CA2に多く存在することが明らかになった。In vivoにおけるシナプス除去現象について、CA2や小脳、外側膝状体、バレル皮質についてシナプス数や可塑性、刈り込みについて補体KOマウスで検討したところ、野生型と比べて顕著な変化は見られなかった。一方、網膜神経節細胞から外側膝状体へのシナプスについては補体KOマウスでシナプス除去が低下していたもののわずかな変化であった。In vitroでのシナプス除去メカニズムの検討では神経活動・糖鎖に着目して検討を行っているが、過去の報告とは異なり、C1qが神経細胞へ結合するという現象が観察できていない。 <シナプス形成の制御分子> Oxford大学との共同研究により、Cbln1のNeurexin結合ドメインとNeuronal Pentraxin1のAMPA受容体結合ドメインとを繋げたキメラ分子、Cerebellin-Pentraxin (CPTX)が、人工的にシナプス形成を生じさせるシナプスコネクターとして作製された。CPTXはNRXおよびAMPA受容体との結合能を示し、AMPA受容体を過剰発現した非神経細胞に対して小脳顆粒細胞のプレシナプスを集積させた。さらに小脳顆粒細胞-プルキンエ細胞間のシナプス喪失により運動失調を呈するCbln1KOマウスおよびGluD2KOマウスに対して、小脳くも膜下腔にCPTXを投与すると運動失調が回復する様子が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究年次計画において、実験系の確立のうち過剰発現・精製および内因性の検出については系を確立することができた。シナプス除去を検出する系については、脳の各部位および神経細胞分散培養系について様々な条件での検討を行ってきたが、最適な検出系を見いだせていない。メカニズム探索については、C1qが神経細胞に結合する条件を最適化できていないものの、C1q受容体の候補が見つかっており、またミクログリアによる貪食に影響する実験結果を得ていることから、ミクログリアが「いつ」「どのように」除去すべきシナプスを認識して貪食するかというメカニズムに迫ることができると考えている。 年次計画の2年目以降に予定されていたシナプス形成の制御分子の作製・評価については共同研究の成果もあり、既に検討が行われている。シナプス形成を生じさせる分子の特徴を解析し、実際にシナプス形成を生じていることがin vitroで確かめられた。さらにin vivoにおいても作製したシナプス形成分子の投与により、シナプス喪失に伴う運動失調を回復させることが観察されており、計画以上の進展が見られた。 以上の研究状況から、研究実績として概ね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
<シナプス除去の検出系確立>初年度ではC1qによるシナプス除去を高感度に検出する系を確立できていない。これまでプレシナプスのマーカーを指標にシナプス除去を検出しようと試みていたが、ポストシナプスにも着目し、スパイン密度や樹状突起の極性などを指標に据えて検討する。海馬、バレル皮質において神経細胞を標識するための色素を電気穿孔法または遺伝子銃により導入し、神経細胞の形態を各脳部位で観察し野生型と補体KOマウスで比較する。またシナプス除去を観察するのに最適な部位・時期を見つけられていない可能性があることから、C1qのin situ hybridizationと組織免疫染色を組み合わせて、C1qを産生する神経細胞を検出すると同時に、シナプス除去が生じる発達期における時間枠に着目して検討を行っていく。 <メカニズム探索>引き続きC1qの受容体探索とその機能解析を行う。またC1qによりミクログリアの貪食がどのように制御されているか、遺伝学的および薬理学的に検討し、貪食を制御する分子メカニズムを検討していく。 <シナプス形成/除去の制御分子>シナプスコネクターについてはin vivoでシナプス形成を誘導しているかどうか、組織学的および電気生理学的に解析を行う。またシナプス除去を生じさせる分子の作製も行う。
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