研究課題
本研究は、マウス小脳プルキンエ細胞をモデルとして、発達期の神経系において未熟な神経細胞の樹状突起が成熟する分子機構をin vivoで明らかにすることを目指す。従来の固定標本の観察による研究から、プルキンエ細胞は生後8日目前後に、複数の短い突起を退縮させ、1本の一次樹状突起を形成させることが知られていた。しかし、この過程は約1日という短い期間に完了するため、どのような形態変化を経ながら樹状突起が1本化され、また、どんな分子機構が関わるかは不明であった。本研究ではこの問題を解決するため、in vivoライブイメージングにより経時的に細胞形態を観察し、樹状突起発達機構を解明しようと着想した。マウス小脳プルキンエ細胞へ、子宮内電気穿孔法を用いてGFP蛋白質を発現させ、生後5日目に小脳へ観察窓形成手術を行い、生後7日目から数日間にわたってプルキンエ細胞の形態を2光子顕微鏡により観察した(【課題1】)。その結果、プルキンエ細胞が樹状突起を1本化させる形態変化過程を明らかにすることができた。次に、樹状突起1本化過程における神経活動の意義を検討した(【課題2】)。神経活動を抑制する目的で内向き整流性カリウムチャネル(Kir)を過剰発現させたプルキンエ細胞の樹状突起形態変化過程を、in vivoイメージングにより観察した。その結果、神経活動が、不要な一次樹状突起の退縮過程に必要であることが示された。さらに、樹状突起1本化過程におけるプルキンエ細胞内の神経活動を可視化するため、カルシウムイメージングによる検討を行った(【課題5】)。プルキンエ細胞へ、蛋白質性カルシウム指示色素であるGCaMP6を、DsRed2とともに発現させ、生後7日目からin vivoイメージングによりカルシウム動態を観察した。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、幼若期マウス小脳へのin vivo 2光子イメージング技術を確立し、GFPを遺伝子導入したプルキンエ細胞、および、神経活動を抑制するために内向き整流性過Kチャネル(Kir)を過剰発現させたプルキンエ細胞の樹状突起を数日間にわたって観察することに成功し(【課題1,2】)、in vivoでの樹状突起発達過程を明らかにすることができた。続いて、カルシウムイメージングを行い、プルキンエ細胞樹状突起における神経活動をin vivoで観察した(【課題5】実験1)。この【課題5】は、当初の計画では次年度以降に予定していたが、上記の【課題1,2】で得られた結果を踏まえ、前倒ししして行うことにした。本検討で得られたカルシウムイメージングの結果を活用することで、引き続き次年度に行う研究計画(【課題3、4】)がいっそう効率的に遂行できるものと期待される。以上から、当初の計画より一部の順序を変更したものの、研究は順調に進展し、成果が得られていると評価できる。
当該年度の研究では、プルキンエ細胞が樹状突起を1本化させるまでにどのような形態変化を経るのかを明らかにすることができた。また、その形態変化に神経活動が必要であることを見出し、またカルシウムイメージングにより、神経活動の可視化に成功した。ここまでの進捗状況はおおむね順調であり、現在のところ研究計画に変更の必要は無いものと考えている。したがって、これらの研究成果を踏まえて、次年度以降は引き続き当初計画した研究内容に沿って、プルキンエ細胞へのシナプス入力による樹状突起形態制御のメカニズム解明(【課題3、4】、【課題5】実験2,3)を遂行していく。
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Neuron
巻: 85 ページ: 316-329
10.1016/j.neuron.2014.12.020.