研究実績の概要 |
ピッチ処理は、大脳半球の左右どちらで優位であるか明らかではない。本研究では、ピッチ処理に関わる聴覚誘発反応N100mを脳磁図により計測した。はじめに心理実験として健康な右利き日本語母語話者169名を対象とし、ミッシングファンダメンタルの音を聞かせピッチ認識ができているかを評価した。ピッチ認識可群とハーモニクス認識可群として各9名の被験者を抜粋した。脳磁図計測において刺激音は、心理実験の結果、弁別が最も良い組み合わせである931Hz, 798Hz, 665Hzの混合音を用いた。ピッチ認識可群は左半球のN100m信号強度33.21±12.73 nAm(平均±標準偏差)、右半球N100mの活動強度64.80±23.70 nAmと統計的に有意に右が大きく(F1,17 = 40.96, P < 0.0001)、一方、ハーモニクス認識可群は右半球N100mの活動強度32.43±7.50 nAm、左半球48.83±8.76 nAmと左が大きかった(F1,17 = 11.89, P < 0.005)。群間比較として左半球では、ピッチ認識可群よりハーモニクス認識可群大きく(F1,17 = 4.37, P < 0.05)、一方、右半球では、ピッチ認識可群が大きかった(F1,17 = 21.47, P < 0.0001)。群内と群間の交互作用の結果は、二つの群のタイプと左右半球の活動強度の交互作用に有意差を示した(F1,17 = 48.50, P < 0.0001)。過去の研究より、音の複雑な変化を分析するのは左半球優位であり、音の周波数成分の分析に対するのは右半球優位であると言われている。ピッチ認識可群は、ミッシングファンダメンタルの音の中に存在しないピッチの周波数を計算してピッチを認知し、ハーモニクス認識可群は、周波数成分を音色としてそのまま認識するといった認知過程の違いが示唆される。
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