研究実績の概要 |
大脳において、音のピッチを認知処理する「ピッチ処理センター」は、聴覚皮質のヘシュル回(Heschl’s gyrus)および側頭平面(planum temporale)に存在することが報告されている。しかし、ピッチ処理が、大脳半球の左右どちらで優位に行われているのかは、諸説あり、いまだに明らかになっていない。心理音声学の研究では、健常人は、音を認知する際に、音のファンダメンタルの認知能力が強い被験者、ハーモニクス成分の認知能力が強い被験者、あるいはどちらにも属さない者に分類できるとしている。すなわち、音の聞き取り能力が異なる二つのタイプと、どちらにも属さないタイプでは、異なったピッチ処理センターを持っている可能性が示唆される。 本研究では、ファンダメンタルの認知能力を有する群とハーモニクス成分の認知能力を有する群について、ピッチ処理に関わる聴覚誘発反応N100mの脳活動を、脳磁図(magnetoencephalography, MEG)により計測をした。 結果としては、ファンダメンタルの認知能力が強い被験者は、左大脳半球と比較し、右大脳半球のN100m信号強度が大きく(p < 0.0001; ANOVA)、ハーモニクス成分の認知能力が強い被験者は、右大脳半球と比較し左大脳半球のN100m信号強度が大きい (p < 0.0001)ことを発見した。また、N100mの脳活動の起源はヘシュル回もしくは側頭平面に推定された。以上より、ピッチ認知処理センターは右大脳半球のヘシュル回と側頭平面に存在し、左大脳半球のヘシュル回と側頭平面はハーモニクス成分の認知処理センターであることを明らかにした。
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