研究課題/領域番号 |
14J07655
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
明坂 弥香 大阪大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 賃金格差 / 成果主義 / 非認知能力 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトは、現在二つの研究に分けて進行している。一つ目は、成果主義と賃金格差の関係に焦点を当てたもの、二つ目は非認知能力や経済選好が東日本大震災によってどのように変化したかを考察したものである。 一つ目の研究は、日本における成果主義が賃金格差に影響を与えていているのか否かを分析している。アメリカでの急速な賃金格差の拡大は、技術革新やグローバル化の影響だけでなく、成果主義的な賃金制度の導入が進んだことも原因だと言われている。(Lemieux et al. 2009)一方日本では、1990年代後半から成果主義的な賃金制度の導入が進んだと言われているが、日本の賃金格差は安定的に推移している。これは、成果主義制度が正しく機能していないことが原因なのか、賃金決定が成果主義的に変化しているにも関わらず、他の効果によって相殺されているのか明らかではない。そこで、企業内賃金格差の動向を観察することで、成果主義的な賃金制度の影響が認められるか否かを観察した。成果主義を導入すると企業内賃金格差が拡大することが知られているが、1990年代前半よりも近年の方がむしろ企業内の賃金格差は縮小する傾向にあることが明らかになった。 二つ目の研究は、非認知能力や選好の変化に着目した研究である。古典的な経済学では、人間の選好は変化しないものと仮定されてきたが、近年災害や紛争など、経験を通して変化が生じることが明らかになってきた。既存研究では、イベントの性質上、事後データをもとにした研究が多いが、被害を受けた人か否かで、もともとのリスク選好等選好が異なり、推定結果にバイアスが生じる可能性が考えられる。そこで阪大GCOEデータを使い、人々の選好の変化に着目した。すると震災の被害を経験した人々の間で、現在バイアスが拡大していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績概要に沿って、二つの研究に分けて達成度をここでは言及する。 まず一つ目、成果主義と賃金格差の研究については、2015年5月に新潟大学で開催される日本経済学会 春季大会でのポスター報告が決定している。現在は、企業ごとの賃金関数を推計し、その残差分散から成果主義制度が与えた影響の可能性について、より緻密な考察を進めている。今年8月にはDPでの公開を予定しており、予定通りに進行していると言える。 二つ目の東日本大震災による非認知能力の変化に関する研究は、2015年5月1日に発売される齊藤誠編『大震災に学ぶ社会科学 第4巻 震災と経済』の第8章に、齊藤誠一橋大学経済学研究科教授、大竹文雄社会経済研究所教授との共著論文として公刊予定である。また、2014年2月に慶応大学三田キャンパスで開催された行動経済学会では、口頭報告とポスター報告を行い、討論者及びフロアから多く意見を頂いた。現在は、その時に頂いたコメントをもとに、論文を改訂する作業を行っている。6月には海外ジャーナルへ投稿する予定で作業を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
ここでも実績概要に沿って、二つの研究に分けて今後の方策について言及する。 成果主義制度が賃金格差に与えた影響に関する研究では、企業ごとに賃金関数を推定し、その残差分散を観察する段階に入っている。現時点で、教育・年齢・勤続年数等をコントロールした場合の残差分散の推移を見ると、2000年代に突入した後から拡大している。時期的に見ても、これは成果主義による変化ではないかと予想されるが、観察期間中に定年延長や派遣労働法の変更など、多くの制度変更が実施されているため、これらの可能性についても今後検討していく必要がある。第18回労働経済学コンファレンスでポスター報告を行う予定で、準備を進めている。今年度中に、海外誌の査読誌への投稿を行う予定である。 東日本大震災が人々の非認知能力や経済的選好に与えた影響についての研究では、リスク回避度・時間割引率・利他性・ストレス指数等、多岐に渡る影響の分析を行っており、それぞれが震災を受けた人々の間で変化していることが分かっている。これからの課題としては、これらの変化がどのように関係しているか、先行研究の考察を用いて、その可能性を検討していく必要がある。また、この研究の政策的含意についても、十分に議論していく必要があると考えている。
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