研究実績の概要 |
これまでに、神経疾患において、異常アストロサイトによる細胞非自律的な作用が病態形成の一因になっていることが明らかとなっており、疾患研究および創薬研究には、アストロサイトを用いた疾患モデルの作出および疾患解析が急務である。本研究では、ヒトアストロサイトの迅速な調製を目指した直接誘導法の開発および誘導アストロサイト(iA細胞)を用いた疾患モデルの作出を目的とした。これまでの検討から、アストロサイト誘導因子(AIF)である、AIF1, AIF2, AIF3をヒト皮膚由来線維芽細胞に導入することにより、アストロサイトマーカーであるGFAP陽性細胞(iA細胞)の誘導が可能であることが明らかとなっている。今年度は、ヒトiA細胞がヒト初代培養アストロサイトに類似した遺伝子発現様式を示すこと、および神経成熟促進作用を有する機能的アストロサイトであることを見いだした。さらに、FACSを用いたヒトiA細胞純化法を見いだすことができた。また、ヒトiPS細胞および神経幹細胞(lt-NES)にAIF1-3を導入することにより、迅速かつ高効率でiA細胞を誘導可能であることを見出した。 次に、GFAP遺伝子の変異が原因となる、アレクサンダー病(ALX)の試験管内疾患モデル作出を試みた。モデル作出にあたり、細胞の遺伝的背景の相違による影響を排除するために、ヒトlt-NES細胞に対し、CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集を行った。対照細胞および変異導入細胞からiA細胞へ誘導したところ、GFAP遺伝子に変異を有するiA細胞において、低分子量熱ショックタンパク質であるαB-Crystallin陽性細胞数が有意に増加すること、およびGFAPタンパク質が細胞内において凝集体を形成することを見いだした。これらの結果から、iA細胞を用いることにより、アストロサイト関連疾患の表現型を再現可能であると考えられた。
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