研究課題/領域番号 |
14J07670
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
酒井 真世 東京大学, 社会科学研究所, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 労働組織 / 組織変化 / referral hiring / informal job information networks / social networks / 炭鉱業 |
研究実績の概要 |
本年度の研究成果として、査読を経た口頭発表である4つの学会報告がある。意義等について研究内容別に述べる。 1、「勤怠表」を用いた研究の発表 「麻生家文書」(九州大学附属図書館付設記録資料館所蔵)から、1900年代に操業した麻生藤棚第二坑の雇用契約書にあたる「志願書」と、鉱夫の出勤を記録した「勤怠表」という一次史料の分析をこれまで行ってきた。本年度は1905年7月時点の「勤怠表」に含まれる情報をすべてデータベース化し、これを使用した研究を社会経済史学会(平成26年5月)にて発表した。「勤怠表」の情報を既にデータベース化した「志願書」の情報に照合すると、双方で確認できる鉱夫がいた。彼らについては雇用契約時点と労働管理に関する情報の両方が得られる。つまり、個々の鉱夫について入職経路、勤怠状況、所属組織の構造までひとつながりで分析することが可能となった。これは、「研究の目的」である、筑豊炭鉱業の労働組織変化を捉える為の過渡的な労働組織の分析に該当し、組織の漸次的変化の一端を明らかにするもののひとつとなったと感じている。 2、「志願書」を用いた研究の発表 ISNIE(平成26年6月)という制度派経済学の中でも最高峰とも言われる学会や、経済学全般における米国最大の学会であるASSA(平成27年1月)に自身の論文が扱っている話題が興味深いと感じられ、採択されたことは大変意義があり、また、米国の地域学会の中でも最も活発に活動している学会であるMEA(平成27年3月)にて発表し、そこでの討論者に素晴らしいアドバイスを頂き、3つの国際学会を通して、自身の研究を国際的に評価される雑誌に刊行されるための準備を進展することができたと感じ、また「研究実施計画」に記載した、1900年代の日本の炭鉱業にあてはめた、推薦採用(referral hiring)の効果についての考察もこの学会により深まった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
筑豊炭鉱業における労働組織の漸次的な変遷、その漸次的な変遷過程に存在した過渡的な雇用組織の実態把握について、「勤怠表」と「志願書」を併せた詳細な分析を行い、「研究の目的」は達成に向かい順調に進展していると感じている。しかし、現時点では数量的な分析に依拠するところが少なくないため、当時の炭鉱企業の日誌などから、現時点での分析結果を補強するものが必要であると感じている。一方、「志願書」により採用状況を分析した研究においては、3つの国際学会で発表、それぞれでご指摘を頂き、経済学的な視点での考察が深まったと感じている。以上の理由で、「研究の目的」は、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度においては、「勤怠表」を主に用いた研究について、The International Society for New Institutional Economics (ISNIE) 19th Annual Conferenceのポスターセッションにて発表する予定であり、労働市場から労働組織内部までをひとつながりのものとして観察した研究が、経済学的な視点によって更に深められる。平成26年度には4つの学会報告やその準備により、時間的制約が大きく、行くことができなかった九州大学附属図書館附設記録資料館への資料調査へ行き、定量的な分析を補強する定性的な証拠を持たせた論文にしていく。
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