研究課題/領域番号 |
14J07715
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
山内 光陽 千葉大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 自己集合 / 螺旋ファイバー / 光応答性材料 / 光損傷 / スチルベン / 核形成-成長理論モデル |
研究実績の概要 |
本研究では、“積層型ナノリングの分子デザインと光による階層構造制御”を基盤とし、革新的な動的新現象の発現を目的としている。研究当初は、キラルな積層型ナノリングを形成するアゾベンゼン二量体を調査しており、この分子デザインに基づいた新規化合物を合成し調査を進めてきた。これに関しては一年目の段階で、分子構造を僅かに変化させるとナノリングが形成せず、多くは螺旋状ファイバーを形成することが明らかになっている。しかしながら、その中でも、スチルベン二量体は光刺激に応答する螺旋状分子集合体を創出し、世界初の「僅かな光刺激で螺旋の巻方向を反転させる」ことを見出した。非常に新規性が高かったため、世界屈指の学術論文誌であるNature Communications誌に掲載された。 このスチルベン二量体は、有機溶媒中で自発的に集まり、右巻き螺旋ファイバーを形成することが円二色性スペクトル及び原子間力顕微鏡によって明らかになった。この右巻き螺旋ファイバーへ紫外光を照射すると、スチルベン部位が分子内[2 + 2]光環化反応し、DNAの光損傷と類似した現象が観察された。さらに、この光生成物は光照射時間を緻密に制御することで定量的に得られることが核磁気共鳴解析及び紫外可視吸収スペクトルにより明らかになった。興味深いことに、この光損傷した螺旋ファイバー溶液を加熱し、いったん分子分散状態とした後、再度冷却すると、螺旋の巻き方向が反転した左巻き螺旋ファイバーが再構築された。これは、純粋な分子とその光生成物が共集合することで集合プロセスが劇的に変わり、螺旋反転を実現したと考えられる。さらに、温度可変円二色性スペクトルを緻密に追跡したところ、これらの螺旋集合体は核形成を伴う「核形成-成長理論モデル」に従って形成されていることが判明し、詳細な集合メカニズムを解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度のテーマは分子構造を変えることで新たな機能を付与することであったが、色素部位を変えたことで会合様式が劇的に変化したため会合メカニズムの解明が困難となった。しかしながら、分子構造にフィードバックをかけることで、非常に珍しい「僅かな光刺激で螺旋の巻方向を反転させる」ことが出来る分子を発見し、さらに詳細な実験によりメカニズムの解明に成功した。この成果の新規性が高かったため、審査が厳しい世界屈指の学術論文誌であるNature Communications誌へ掲載が決まった。また、この結果は、国内外の学会にて評価されており、学生講演賞を受賞することが出来ている。 また、この研究と同時進行で進めてきた、指向性の高い多重水素結合を有する新規化合物に着目している。この化合物は相補的水素結合によりリング状の超分子(超分子マクロサイクル)を形成し、それが積層することでナノシリンダー状の分子集合体を形成することを見出しており、緻密な測定により、興味深い結果が得られている。これに関しては、追加実験をしつつ論文執筆を進めている。 以上のように、一年間の研究期間において、トップジャーナルへの掲載と新たな成果を見出すことができたことから、本年度の研究は順調に進んでいると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度はまず、2年目に発見した多重水素結合を有する新規化合物の集合メカニズムを明らかにする予定である。そこで、2年目に解明することが出来たスチルベン二量体と同様に理論モデルを駆使して、まだ未解明であったメカニズムの解明を試みる。同時に、論文執筆を進めていき、いち早く世界に発信したいと考えている。 また現在、上記のプロジェクトに加え、光応答性部位を分子構造に導入し、機能化を試みている。最近、試行錯誤することで光反応を利用した新現象が見出されつつある。この内容に関しても調査を進めつつ、学術論文として形にしていきたいと考えている。 この新たな研究プロジェクトは、リング状の超分子(水素結合性マクロサイクル)を経由する分子集合体を緻密に調査し、光応答性を付与していくことである。すなわち、この新テーマを進めていくことで、本研究の当初の目的であった“積層型ナノリングの分子デザインと光による階層構造制御”を他の分子で達成することになり、より一般性が向上すると考えられる。
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