研究課題/領域番号 |
14J07744
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 信宏 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | ミシェルパラメータ / タウ粒子 / Belle実験 / 放射性レプトニック崩壊 / 最尤法 |
研究実績の概要 |
本研究の第一段階はタウ粒子のミシェルパラメータ(η,ξκ)の測定をすることだ。ミシェルパラメータはタウ粒子の崩壊を普遍的に記述することのできる指標であり,その測定は新物理の検証の有用な手段の一つであるにも関わらず,上で挙げた両パラメータは統計に伴う技術的な難しさによって未だ測定がなされていない。しかしながら,タウファクトリーでもあるBelle実験で得られた電子陽電子対の大統計の中には,タウ粒子対の生成反応が約2×10の9乗個程度も含まれており,その崩壊のダイナミクスを詳細に検証することで同パラメータを抽出することが可能だ。 本研究でもっとも困難なのは,シグナルであるτ→lννγ崩壊をバックグラウンドからうまく抽出することだ。フォトンの運動量の測定は電磁カロリーメーターの測定精度に大きく依存するが,飛跡を検出器によってトラッキングできる荷電粒子の測定に比べると,測定精度は一ケタほど悪い。またノイズ由来の再構築の誤りとも戦わねばならない。本年度は主に,モンテカルロシミュレーションを用いたシグナル選択条件の模索を行い、実際の実験状況下におけるバックグラウンドの割合を明らかにした。 モンテカルロのよるバックグラウンド研究とは平行して,最尤法によるミシェルパラメータのフィッティングの準備も行った。上で述べた条件で選択されたイベントに対して,ミシェルパラメータが尤もらしい確率を理論的に計算することができる。この尤度の計算には,シグナルのイベントの崩壊が起きる確率密度だけでなく,バックグラウンドのそれも記述する必要がある。これには理論物理からくる複雑な計算の理解が必要不可欠であり,多大な時間と計算コストを要する。シグナルの確率密度の計算は高精度な検証を含めて終了しおり,現在は,バックグラウンドを表す確率密度の計算法の確立を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定では,一年目には解析法の習熟に加えて,シグナルイベントのジェネレータを製作まで終えている予定であったが,すでにイベントの選択条件の研究は終了し,現在は終状態にミューオンを含むイベントのバックグラウンドの確率密度計算を行っている。このうち,最も寄与の大きいものは電磁カロリーメータ内に生じたビーム由来のfakeクラスターであり,その組み込みが終了した。残りの寄与に関しても,ひとつづつ記述を進めていく。本年度中に,実験データのpreliminaryな解析結果を出すことも十分に可能な進捗状況である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は各バックグラウンドの確率密度の計算法をひとつづつ完成させていく。バックグラウンドの中には,終状態に含まれる複数の粒子のうち一部が失われてしまったことによるフェイクイベントなど,確率密度の記述が難しいものも含まれており,どのモードから処理していくかはよく練らねばならない。しかし,具体的な方針はすでに立っており,現在デバッグをしつつ進めている。 バックグラウンドの記述を終えたら,系統誤差の見積もりを開始する。本年度,自ら作成したジェネレータを用いて生成したイベントをフィッティングし,統計誤差が解析精度の多くを占めるであろうことが明らかになったが,これは通常のレプトン崩壊などの先行実験の値をもとにした推測であり,本解析における実際の値は今後の解析を待たねばならない。具体的にどのようなアプローチで系統誤差を見積もっていくのか,今後考察していく。
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