研究実績の概要 |
微生物は「酵素」の宝庫である。環境微生物の大半が実験室で培養困難であるため、メタゲノムの利用が注目されている。この方法では、大腸菌などの宿主でメタゲノム遺伝子を「異宿主発現」し、活性スクリーニングすることによって目的酵素を取得するという手順を踏む。しかし、異宿主発現の効率が低い場合も少なくない。そこで私は「翻訳」に着目し、翻訳装置であるリボソームの改良を試みた。リボソームは、RNAとタンパク質からなる極めて精緻な構造物であるが、その触媒活性はRNAが担っている。私は、翻訳の初期段階に中心的に働く16S rRNAに着目した。当研究室で開発した「16S rRNA遺伝子の置換実験法(Nat commun, 2011; PNAS, 2012)」は、大腸菌rRNAオペロン完全欠損株において、生育を相補するために発現している大腸菌rRNAオペロンがコードされたプラスミドを、異種16S rRNAと大腸菌5S, 23S rRNAで構成されるオペロンがコードされたプラスミドで交換するというものである。私は、その方法で使用されてきた薬剤耐性マーカー遺伝子をゼオシンからトリメトプリムに変更することで、16S rRNA遺伝子置換変異大腸菌株の形質の安定性の向上に成功した(Tsukuda & Miyazaki, JBB, 2013)。また、置換実験に用いた異種16S rRNA遺伝子の給源として、土壌や哺乳類動物の糞便、海水などの環境サンプル由来のメタゲノムを利用した。その多様な16S rRNA遺伝子ライブラリーを用いて、大規模な置換実験を行い、結果的に多種多様な16S rRNA遺伝子を機能する大腸菌株を獲得することに成功した。その中には大腸菌野生株より1.7倍程度翻訳効率が向上した変異体も存在し、本手法によるリボソーム改変が大腸菌の宿主創成技術になりうつことが明らかとなった。
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