研究課題
生体肝移植術後における合併症発症は患者の予後を左右する重大な問題である。中でも急性拒絶反応は、タクロリムスをはじめとする免疫抑制薬を使用しているにも関わらず発症頻度が高く、一刻も早い解決が望まれる。また、現在までに様々な肝機能マーカーが見出され日常診療で広く用いられているものの、肝機能障害の原因が様々であり、例えば過剰な免疫反応の結果生じる拒絶反応なのか、反対に過剰免疫抑制による感染症なのかによって対応が大きく異なるが、現状これらを見分けることは困難である。そこで、急性拒絶反応を正確に予測、診断することが可能となれば、患者の予後は劇的に改善されると想定し、その分子生物学的指標の確立を目指した。移植術後、タクロリムスの体内動態を変動させ得る遺伝的要因を考慮して投与量を調節しているにも関わらず、急性拒絶反応を来す症例が少なからず存在する。そこで、健常成人由来の移植肝における遺伝子発現量の違い、すなわち移植肝の体質が移植術後の拒絶反応の頻度・重症度に関連するという仮説を立てた。術直前の移植肝における遺伝子発現量を比較するため、800例を超える移植肝生検の中から、原疾患を胆道閉鎖症とする小児移植症例12例の検体を選択し、マイクロアレイを行った。その結果、経過良好群に比して急性拒絶反応群において2倍以上発現の高かった224遺伝子を急性拒絶反応発症に関与する候補分子とした。現在、抽出した分子のmRNA発現量をリアルタイムPCRにより測定するだけでなく、肝組織中におけるタンパク質発現を免疫染色法により確認し、再現性および予測性の妥当性評価を行っている。今後は、急性拒絶群において発現が亢進していることが明らかとなった分子に着目し、生体肝移植術後の急性拒絶を術前より予測、診断する分子生物学的指標を確立すること、さらにはその分子を標的とした新規治療法を開発することを目指す。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り800例を超える移植肝生検の中から、原疾患を胆道閉鎖症とする小児移植症例のうち患者背景の類似する症例を抽出し、その検体を用いたマイクロアレイ解析を行った。経過良好群に比して急性拒絶反応群において2倍以上発現の高い224の遺伝子を抽出し、急性拒絶反応発症に関与する候補分子として検討を進めた。抽出した分子のmRNA発現量をリアルタイムPCRにより測定するだけでなく、肝組織中におけるタンパク質発現量を免疫染色法により確認し、再現性および予測性の妥当性評価を行っている。論文発表するに至っては居ないが、得られた研究成果を国内外の学会で発表し、学外の研究者とも積極的に議論した。また、本研究を進めるにあたり副次的に得られた結果について、実験指導した後輩と共に論文としてまとめ、誌上報告した。
これまでに抽出した急性拒絶反応発症に関与する候補分子について、再現性および予測生に関する妥当性を評価するため、引き続きリアルタイムPCRによる検討を行う。また妥当性が評価された後には、拒絶反応発症との関連を明らかにするために、ラットin vivo実験を行う。肝臓移植モデルラットを用い、候補分子の特異的阻害薬や中和抗体あるいはsiRNAを導入することにより、急性拒絶反応の発症に与える影響を調べる。さらには、その阻害薬(抗体等を含む)を用いて急性拒絶反応発症の予防あるいは治療薬開発に向けた検討を進める。本研究を通じて見出される遺伝子を標的としてデザインされた薬物が、新規の免疫抑制薬としての効果を示さない場合においても、当該遺伝子がアロ抗原(移植組織等)に対する強力な排除系の中心的な遺伝子であることに変わりはない。従って、新規の免疫抑制薬としての応用が困難な場合でも、当該遺伝子は急性拒絶反応を予測するリスクマーカー(危険因子)としての臨床応用は十分に期待できる。そこで、候補分子の発現レベルを指標に既存薬を中心とした適切な免疫療法レジメンについて、新規肝臓移植患者を対象に構築するという臨床研究を想定している。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
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