研究課題/領域番号 |
14J07870
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 拓朗 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 電荷秩序 / 電荷ガラス / 幾何学的フラストレーション / 異方性制御 |
研究実績の概要 |
本研究で対象にしている擬2次元有機伝導体θ-(ET)2Xは、バンド1/4充填、かつ三角格子に起因する幾何学的フラストレーションという2つの特徴を有しており、フラストレーション下における電荷秩序状態を調べる格好のモデル物質である。電荷秩序状態は、電荷が互いを避けて周期的に局在し、並進対称性の破れを伴う、いわば電子の結晶と見なせ、幾何学的フラストレーションとの関係が興味を持たれている。特に、θ-(ET)2CsZn(SCN)4、θ-(ET)2RbZn(SCN)4(以下、それぞれCsZn、RbZnと略称)では、低温で電荷ガラス相(電荷が不均一に凍結し、長距離秩序を示さない)という非自明な電子状態が実現することがこれまでの研究で明らかになった。 平成26年度は、フラストレーションが電荷ガラス的挙動へ与える影響を定量的に評価することを目指し、CsZn、RbZnに加え、θ-(ET)2TlCo(SCN)4(以下、TlCoと略称)を用いてフラストレーションパラメータを離散的に制御した。TlCoにおける電気抵抗測定・放射光を用いたX線散漫散乱測定の結果と、RbZn、CsZnの結果を包括的に考えると、フラストレーションが強くなるにつれて、電荷ガラス相が実現しやすくなるという系統性が見えてくる。フラストレーションが、短距離的な電荷秩序ドメインの成長を妨げることによって、電荷秩序相の長距離秩序化を阻害し、電荷ガラス相に到達するという描像で説明できると考えている。さらに、CsZnを異方的に加圧しフラストレーションを連続的に制御することで電荷ガラスの質の変化を調べた結果、構造ガラスで知られているガラスを特徴づける”fragility”が系統的に変化することを見出した。単一の物質でのfragility変化を観測した報告は、構造ガラスの分野でも未だ例がなく、重要な成果だと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画どおり、異なる物質を用いて、実効的にフラストレーションを変化させることで、フラストレーションと電荷ガラス的挙動との相関の全体像を明らかにすることに成功した。具体的には、電荷ガラス相と電荷秩序相とを分ける臨界冷却速度が、フラストレーションに応じて系統的に変化することを観測した。さらに、平成26年度は一軸圧印加による単一の物質におけるフラストレーションの連続的な制御実験も行い、同じ物質で、電荷ガラス相から電荷秩序相へと低温の電子状態が変化していく様子を捉えることに成功した。非平衡状態を特徴づけるスローダイナミクスの温度依存性から、ガラスの基本的物理量であるfragilityの変化を観測し、これまでシミュレーションから予測されていた結晶化のしやすさとガラス的挙動の相関を、実験的に初めて観測することに成功した。上記の成果は、電荷ガラスという新しい研究領域の開拓に向けた重要な成果であり、当初の計画以上に研究が進展していることを示していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はより詳細にフラストレーションとガラス相の相関を調べることを目指し、比較的結晶化しやすいRbZnを用いて、フラストレーションを強めていった場合のガラス的挙動の変化を調べる。これによって、物質をふることで大雑把に描いた相図を定量的に評価することが可能になる。 以上に加え、次年度はさらに2つの方向から実験を進めていきたいと考えている。まずは電荷ガラス相におけるスピン自由度の問題である。これまでの実験では、電荷の自由度という観点に着目しており、スピン自由度は全くの未解決問題である。NMR等の実験手法を用いて、極低温のスピン状態を明らかにすることを目指す。 2つ目は過冷却状態からの電荷の結晶化過程についてである。一般の原子や分子の自由度における結晶化過程は、液体と固体の自由エネルギー・液体中における粒子の拡散現象が重要な役割を果たす。しかし、電荷の自由度における結晶化が、同じ物理で理解できるかどうかは自明ではなく、非常に興味深い問題である。電気抵抗ノイズ測定などから、結晶化途中の系が示す、電荷揺らぎの観測を試みる。
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