本年度では、ソテツ由来GH18キチナーゼ(CrChiA)の糖転移活性の発現に重要なアミノ酸残基の特定を行った。対象となった残基は、前年度に明らかにしたX線結晶構造から推定されたトリプトファン残基(Trp168)である。Trp168をアラニンに置換した変異型酵素を作製し、その糖転移活性への影響をHPLCで調べた。その結果、変異型酵素ではほぼ完全に糖転移活性が失われていることが明らかとなった。以上より、CrChiAの糖転移活性の発現にはTrp168が重要なアミノ酸残基であることが分かると同時に、アクセプター基質に対する結合力が重要であることが明らかとなった。以上の結果から、アクセプター基質に対する結合力を増強することで糖転移活性を増強できると考えた。糖転移活性の増強は、将来の酵素合成によるキチンオリゴ糖生産において非常に重要である。そこで、アクセプター結合サイトにTrp側鎖を導入した変異型酵素を作製し、糖転移活性への影響をHPLCで調べた。その結果、変異型酵素では顕著な糖転移活性の増強が確認された。このことから、糖転移活性の発現にはアクセプター基質に対する結合力が重要であることが証明された。次に、より効率的なキチンオリゴ糖合成の実現のために活性化基質である糖オキサゾリン誘導体[(GlcNAc)n-oxa]を用いることを考えた。(GlcNAc)n-oxaはGH18キチナーゼを用いたキチンオリゴ糖合成において非常に有効な基質である。しかし、原料となるキチンオリゴ糖の分離精製が困難であることから利用が難しかった。本研究ではキチンオリゴ糖混合物からの合成および分離精製に成功し、効率的な生産法を確立した。この(GlcNAc)n-oxaを用いて(GlcNAc)7の酵素合成を試みた。その結果、植物キチナーゼを用いたキチンオリゴ糖合成に初めて成功した。以上のことから、本研究は、有用糖質であるキチンオリゴ糖の安価で安定な生産につながるもの考えられ非常に意義あるものとなった。
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