研究実績の概要 |
本年度はキラルリン酸による脱離基の活性化に基づく分子内不斉SN2'反応の詳細な検討を行った。5員環形成反応において、トシルアミドを求核部位として有する基質では反応性が低いという問題があったため、まずはじめに窒素原子の保護基の検討を行った。その結果、保護基の電子求引性と生成物の収率・エナンチオ選択性には正の相関関係があることが明らかとなり、強力な電子求引基である2,4-ジニトロベンゼンスルホニル基を用いた場合に最も良好な結果が得られた。この結果は触媒が酸として脱離基を活性化するのみならず、塩基として求核部位をも活性化していることを示唆する。 続いてビナフチルリン酸触媒のスクリーニングを行った。その結果、BINOL骨格の3,3'位の置換基としては9-アントラセニル基が有効であり、とりわけアントラセンの10位にメシチル基を有する触媒が最適であった。 最適化した条件にて本反応の基質一般性を検討したところ、5員環形成においては概ね良好な結果は得られたものの、6員環形成反応は全く進行しなかった。副生成物を精査したところ、興味深いことにリン酸触媒と基質との置換反応で生成したと考えられるリン酸エステルを単離した。つまり比較的遅い6員環形成反応においては、環化反応よりもリン酸触媒との置換反応が優先して進行し、触媒が不活性化していることを示している。尚、生じたリン酸エステルを同一条件に伏しても目的の環化体は得られなかったことから、リン酸が求核触媒として作用している可能性は除外した。 今後はこの予期せぬ副反応を利用し、分子間反応に展開する予定である。
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