研究課題/領域番号 |
14J08019
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 斐有 京都大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 天然物の全合成 / カプラザマイシン A / 結核 / 世界三大感染症 / 超多剤耐性結核菌 |
研究実績の概要 |
結核は世界三大感染症の一つであり、近年では多剤耐性結核菌(MDR-TB)の出現に加え、既存薬での化学療法が事実上困難な超多剤耐性結核菌(XDR-TB)の出現により大きな脅威となっている。カプラザマイシン類は放線菌より単離された核酸系抗生物質の一種であり、多剤耐性菌を含む結核菌に対し強い抗菌活性をもつことが知られている。本年度は強力な抗結核作用を示すカプラザマイシン Aの初の全合成を目指し大量合成に適した実践的経路の確立を検討した。具体的には、(1) カプラザマイシン Aの中心部に位置する3つの不斉中心をもつ7員環ジアゼパノン骨格の効率的構築と、(2) 酸性・塩基性条件下に不安定な天然型脂肪酸側鎖のジアゼパノン部位との連結法の確立、さらに(3) これまで報告例のなかった合成の終盤で穏和な条件で一挙に脱保護可能な保護基の最適化を検討した。(1) については、光延反応により全ての不斉中心を損なうことなく良好な収率で目的の7員環ジアゼパノン骨格を構築することができた。また、本環化反応においてジアゼパノン上の二級水酸基の保護基に嵩高いものが有効である知見を見出した。(2) においては、連結の際にジアゼパノン上でのエピメリ化・β脱離・レトロアルドール反応等の副反応が予想されたが、ジアゼパノン上の二級アミン部位をTroc基で保護することで、ジアゼパノンと脂肪酸側鎖を良好な収率で連結できる知見を得た。 これまでに天然型脂肪酸側鎖の導入法は報告例がない。(3) においては、5つのCbz基、BOM基、ベンジルエステルで保護したカプラザマイシン A保護体をギ酸存在下、Pd blackで処理することで、不安定な側鎖部位を損なうことなく合成の終盤での脱保護に成功し、カプラザマイシン Aの初の全合成を達成した。本合成経路は脂肪酸側鎖をもつ関連天然物の全合成へ道を拓いたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は7員環ジアゼパノン骨格の効率的構築と、天然型脂肪酸側鎖のジアゼパノン部位との連結について重点をおき検討を試みた。その結果、ジアゼパノンにおける適切な保護基の選択が本課題を解決する上で有効であることを早期に見出した。さらに、本知見を踏まえ合成の終盤で容易に除去できる保護基のスクリーニングを効率的に行なうことで、カプラザマイシン Aの全合成を世界に先駆けて達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度確立したカプラザマイシン Aの全合成においては、当分野で開発したチオウレア触媒を用いたアルドール反応によるシンβヒドロキシアミノ酸部位のジアステレオ選択性に改善の余地を残している。また、既存薬での化学療法が事実上困難な超多剤耐性結核菌(XDR-TB)の出現が今日大きな脅威となっていることを踏まえ、本治療薬として期待され、さらにカプラザマイシン類の誘導体でもあるCPZEN-45の効率的合成法の確立を検討する。この際、大量合成法を指向した合成経路を確立するためにはアルドール反応によるシンβヒドロキシアミノ酸部位のジアステレオ選択性の向上が必要不可欠となるが、この問題は当分野での知見を生かし種々のチオウレア触媒をスクリーニングすることと、基質であるアルデヒドに用いる保護基を最適化することで克服できると考えている。
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