研究課題/領域番号 |
14J08033
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森田 唯加 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 心臓前駆細胞 / 心臓細胞系譜 / 心臓再生 / エピジェネティクス / ES/iPS |
研究実績の概要 |
本研究は、未分化細胞から心臓細胞への運命決定に必須のSall1遺伝子に焦点を当てて、1. 心臓構成細胞の運命決定をより理解すること、2.心臓再生の活性化メカニズムを理解することを目的としている。これまで心臓細胞は中胚葉因子Mesp1由来細胞で構成されていると考えられてきたが、Mesp1由来でない細胞群からも心臓構成細胞が分化してくることを突き止めた。Sall1GFP;Mesp1cre;ROSA-RFPマウス初期胚の心臓前駆細胞領域をセルソーターによる選別後、再培養・免疫組織化学・qRT-PCR解析を行った。その結果、Sall陽性細胞は心トロポニン陽性の心筋細胞へと分化していた。また、胚性7.0日目に前述マウスのSall陽性領域にDiIインジェクションを行い、全胚培養後に免疫組織化学法で詳細に解析した結果、Sall由来細胞は心臓領域に入り込み、心筋細胞へと分化していることがin vivoにおいても明らかとなった。興味深い事にSall1;Mesp1 ダブル遺伝子破壊マウスでは心臓領域のみが消失していた。これらの結果から、Sall1とMesp1は協調的に心臓を形成していると考えられる。ES/iPS細胞に両因子を強制発現させると有意に心臓構成因子の発現亢進が見られ、活動電位計測から機能性心筋であった(特許申請中)。 さらに、心臓再生時にSall1が一過的に再誘導されることを明らかにした。出性後2日目の新生仔Sall1GFPマウスに心臓先端を切除し、2日後にThy1抗体(心臓線維芽細胞)を用いてセルソーターにより選別を行った結果、GFP陽性細胞のうち約80%がThy1陽性細胞であり、この細胞集団は心筋へと分化していた(Morita et al., in preparation 2015b)。 以上の結果は、今までの心臓学に新たな概念をもたらし、その学術的意義は大変大きいと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では、1年目に 1. Sall1の強制発現/発現抑制による心臓細胞系譜への直接分化解析、2. Sall1による新たな細胞系譜の同定およびMesp1との細胞系譜特性の解析、Sall1遺伝子自身の分子制御機構の解明を目指し、2年目にSall1と協調して機能する心臓プログラム促進因子の同定を目標にしていた。 実際に、Sall1の強制発現/発現抑制実験は進展している(Morita et al., in preparation 2015a)。二つめとして、Sall1,Mesp1の細胞系譜特性を深く理解することができた。今までMesp1由来細胞のみで心臓が構成されると考えられてきたが、Mesp1遺伝子破壊マウスでは心臓は形成され、Mesp1-Mesp2ダブル遺伝子破壊マウスでは中胚葉自体に誘導異常が起こる。興味深いことにSall1-Mesp1ダブル遺伝子破壊マウスでは心臓領域のみが消失される。このことはSall1-Mesp1協調的に初期心臓形成に必須であることを意味し、両2因子が心臓マスターである可能性を示唆している。この研究結果は、学振研究2年目時に計画予定の前倒し研究である。さらに、DOX誘導型SALL1-MESP1ヒトiPS細胞を作製し、一過的に両因子の強制発現系を構築した。この結果ヒトiPS細胞では、驚くべきほど心筋誘導の高効率に心筋誘導化に成功した(特許申請中)。3つめとして、心臓再生時にSall1が一過的に線維芽細胞に発現することを見いだし、Sall1の一過的に発現した線維芽細胞は心筋へと分化転換することを見いだした(Morita et al., in preparation 2015b)。この発見は今まで人為的に分化転換(リプログラム)が求められていた研究領域に新たな発展性を付加するものである。 以上より、本研究は当初の研究以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、細胞が運命を得て分化する際に、1)移動方向、2)各種細胞への分化方向、をライブで追跡する系が限られている。しかも追跡する系は一遺伝子のみである。つまり、3)由来の異なる少なくとも二つの細胞の分化方向を追跡する系が無い。4)一旦分化した細胞はその状態が終末であると考えられていたが、H26年度研究において、分化した細胞が逆的性質を持ち合わせている可能性についても証明できつつある。この能力が明らかにできると疾患緩和へのアプローチが期待される。 よって、H27年度はまず、①初期胚でSall由来細胞の移動と分化方向について全胚培養系を用いて追跡し、その軌跡おける意味を考える。その為にZeiss lightsheet顕微鏡を用いて解析系を立ち上げる。②現在、cre-loxpシステムを用いた細胞系譜追跡系が主たる解析方法である。これでは一遺伝子でマークされた子孫細胞のみしか追跡できない。 H26研究結果において、初期心臓はSall1とMesp1由来の細胞から構成されていることが明らかとなった(Morita et al., in preparation 2015a)。この結果をより発展させる為に、Dre-roxシステムをcre-loxpシステムとを組み合わせることにより、2つの遺伝子由来の細胞系譜追跡が行える系を開発し、イメージングを解析を行っていく。③前述②の発展系として、Sall1-Mesp1がマスター因子であるならば、両因子のみ一過的に強制発現させる(DOX誘導型)ことで、効率良く心筋分化を誘導できると考えられる。よりシンプルな心臓誘導を可能とする培養系の確立を目指す。④細胞が自ら付帯している可逆性能力を明らかにしてきた。H27年度前半に論文を投稿する(Morita et al., in preparation 2015b)とともに、その能力を向上するサイトカインの特定を目指す。
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