研究実績の概要 |
(1)社会的相互作用を測る新規行動課題を確立し、自閉スペクトラム症(ASD)傾向との関連を示唆する結果を得た。 ASDは「対人的相互交流の障害」(DSM-5)を特徴とするが、具体的にどのような社会的相互作用が障害されるかは議論の余地が多い。単純な身体運動による行動課題を新たに確立し、ASDと定型発達とで社会的相互作用がどのように異なるかを調べた。新規行動実験として、「ロープを左右に引く」という動作が、他者の同じ動作によって影響されるかを調べた。被験者2名(ペア)同時に実験を行い、ペア相手が見えない時(単独条件)と、見える時(ペア条件)とで行動を比較した。定型発達者12名(=6ペア)を対象に行動実験を行った。「単独条件→ペア条件→単独条件」のように進めた。運動量(ロープを引いた量)を測ったところ、実験終了時点で開始時に比べて両者の運動量の差分が有意に小さくなった。すなわち、運動量が相手に「引き込まれる」傾向がみられた。また、Autism-Spectrum Quotient(Baron-Cohen et al. 2001)の下位項目「社会的スキル」得点がペア相手に比べて相対的に高い人は、運動量の「引き込み」がより早い段階で生じている可能性が示唆された。 (2)社会的相互作用に関連する脳部位を同定するために必要な、「localizer課題」を確立した。 線条体は、新規課題に関連する可能性が高い脳部位である。線条体のlocalizerとして、「Monetary Incentive Delay課題」(MID課題; Knutson et al. 2000, 2008)の実験系確立に取り組んだ。定型発達者37名について、MID課題を行っている最中の脳活動をfMRIで測った。先行研究と同様、線条体の有意な賦活が認められた。MID課題は線条体のlocalizerとして有用であることが分かった。
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