ルフェーヴルの日常性の主題と「ファシズム批判」研究を行い、その際にステルネルら現代のファシズム研究の動向にも留意した。この研究成果は、フランスの出版社Les Editions du Netから刊行予定の論文集に掲載される予定である。以下でその概要を記す。 現代のファシズム研究は、従来の社会経済史や政治経済的な枠組みでの分析よりも文化的・イデオロギー分析に依拠することで「パラダイム転換」を果たしたと言われる。フランスの代表的な研究者はゼーブ・ステルネルである。彼の一連の著作、とりわけ一九八三年の『右派でも左派でもなく:フランスのファシズム・イデオロギー』は、フランスの歴史学界に大きな論争をもたらした。というのも、ステルネルは、思想史的なアプローチによって、(フランス革命によって他のヨーロッパ諸国に先んじて形成された共和主義的な自由主義の伝統ゆえにファシズムから免れているという)「免疫説」や(イタリアやドイツのファシズムの影響力がフランスに浸透していたという)「模倣説」といったこれまでのフランス・ファシズムの解釈枠組みに対して、フランスにも独自のファシズムの土壌があったという「自生説」を展開したからである。この主張の反響は、2014年の彼の自伝的対談集『歴史と啓蒙』出版直後に、長年の論争相手であるミシェル・ヴィノックが編者のひとりとして『フランスのファシズム?―論争』を出版し、ステルネルの立場を改めて批判したことからもうかがえる。 本研究は、明確に免疫の意味論に連なる「抵抗」として、ルフェーヴルのファシズム批判を定式化する。それは、必ずしもフランス独自のファシズムを見定めようとするステルネルの試みを否定するわけでも、フランスの共和主義的伝統を強調する立場と同一視するものでもないものとして、これまで明らかにされてこなかったルフェーヴルの反ファシズムの言説を位置づけるものである。
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